■発想の転換-「美少女ゲームはパンク」
-まずは、自己紹介からお願いできますか?
金杉「10数年ほど美少女ゲームの制作とゲーム音楽の製作を手がけています。ゲーム製作の代表作は『Piaキャロットへようこそ!!』シリーズや『Canvas(キャンバス)』シリーズ、最新作では『EVE~new generation~(イブ・ニュージェネレーション)』をプロデュースしました」
-ゲーム業界に入る前は、DJをされていたそうですね?
金杉「そうなんです。記号化して『DJ』って言ってますが、大学生くらいのころはDJをやりながら、クラブをプランニングしたりプロデュースしたりしてました」
-パーティーのオーガナイザーではなく、クラブ自体をプロデュースされていたということですか?
金杉「そうです。クラブ本体を作って、そこにDJを集めて、『金曜は●のDJで、acid jazz。土曜は●がDJしてhouse』といった月のタイムテーブルを構築するような包括的な仕事をしていました。僕がクラブを立ち上げたころって、『マハラジャ』に代表されるディスコとかが栄えていた時期で、『クラブ』という言葉自体がない黎明期でしたね」
-なるほど。ちなみに金杉さんは、どんなジャンルのDJをされていたんですか?
金杉「専門はhouseなんですけど、当時って半年くらいのスパンでイギリスから色んなムーブメントが流れ込んでくるような時期だったんですよ。レアグルーヴが来て、HIPHOPが来て、acid jazzが来て、ニューヨークからhouseがきて、houseがきたと思ったらacid houseがくる…・みたいな。ホントに色んなものが流れ込んでくる時期で、その流れ込んできたものを受け入れて、どんどん新しい音楽をプレーするクラブが、僕のところのほかに2~3軒しかなかったんで、どんどん新しいことをやっていきました。あと、『ファンキーウォーターゲイト』と『ファンキーエイリアン』というラップのユニットなんかも作りましたね。『Cutie』創刊時のイベントをプロデュースさせてもらった際は、自分のユニットとオーキッズというユニット、ほかに、まだ、地下で盛り上がっていた東京スカパラダイスオーケストラをブッキングして開催したんですけど、イベント自体がたいへん盛り上がって、それを機にスカパラがキティーレコードと契約をして…みたいな、イベントがきっかけで色んな出来事が進展した感じですね」
-そういった時代を経て、ゲーム制作の会社に行かれるわけですが、どういった経緯でゲーム業界に進まれたんですか?
金杉「本当は、『映画の世界に行きたいな』と思ってたんですけど、人に話を聞くと出世するには長い下積みが必要というお話が多かったので、『映画ではなくて音楽のある映像エンターテインメントって何だろう?』と考えた結果、『あっ。ゲームだ』ということになり、ゲーム会社に潜り込んだ訳です(笑)」
-入社したゲーム会社は、どういったものを手がけられていたんですか?
金杉「それがですね、その会社はいわゆるアダルトゲームに注力している会社だったんです。実は僕、そのことを全く知らずに入ってしまって…(笑)。会社に置いてあるモニターに目をやると、ピンク色の髪のお姉ちゃんが痴態をさらしてるという状況で…『これ、何ですか!?』って社内の人に聞くと『自社製品ですが何か?』みたいに切り返されちゃって…。初めて見たそれは、衝撃が大きくてビックリしました(笑)」
-なるほど(笑)。アダルトゲーム企業だと知らずに入ってしまって、2週間で「ムリ…」って退社した友だちもいました(笑)。
金杉「そうなんですよ(笑)!知らないで入っちゃうと絶対に続かないと思います。僕がその前までいた世界と全然違うし、『無理』って思いましたね(苦笑)」
-でも、金杉さんは逃げ出さなかったわけですよね?
金杉「僕も入って2週間くらいは、やっぱりうなされましたよ(笑)。出社してはいるものの、『マズイ…。これは』って思っていましたもん。だけど、ある時、発想がコロッと変わったんですよ。というのは、僕、10代のころ、パンクロックの洗礼を受けてるんです。そのパンクの真髄って、技術なんかまったくないけど、ギター持って、3コードをデカイ音でかき鳴らして、訳の分からない体制批判をわめくようなスタイルなわけですよ。なんか、それに近いものを当時の美少女ゲームに感じたんですよね(笑)。技術はほとんどないんだけれども、一方向に特化した部分で、ほとばしる情熱みたいなのを感じて、『自分がこれだけ驚いてるんだから、これをもっと世の中に広めれば何か大きなムーブメントになるのでは!?』と、発想を変えたんです。約2週間、うなされながら(笑)。それから変わりましたね」
-そこで美少女ゲームとパンクがつながったんですね(笑)。で、会社に留まることになり以降、どんなことをされたのですか?
金杉「そうですね。最初はデバックをちょっとやって、シナリオもやって、その後、ゲームを作ることになるんですが、その1番最初に作ったゲームが、前述のパンクの3コードと一緒でEnterキーしか押さない、ゲームとは呼べないようなゲームなんですよ。面倒臭いこと一切なし。Enterキーを押してくれれば、どんどん痴態をさらけ出しますよっていうゲームを作りました(笑)」
-シンプルですね(笑)。当時の美少女ゲームって、今の美少女ゲームと比べてやっぱり表現は過激だったんですか?
金杉「当時は、PCゲーム系の倫理機構『ソフ倫』※ができる以前のことだったので、無限の荒野が広がってたんですよ(笑)。だけど、ゲームの20~30%がアダルト的なシーンで、60~70%がラブコメ的なシーンというゲーム構成で、アダルト色を前面に押し出している企業がなかったんですね。なので、『それを逆転させちゃったら面白いのでは?』と考えて、結構過激なことをやってました(苦笑)」
※PCゲーム等の倫理的な規制及び審査を行う団体。1992年設立。正式名称「コンピュータソフトウェア倫理機構」。
-金杉さんは美少女ゲームも黎明期から携わってたんですね。ところで話は少しずれますが、秋葉原のメードカフェ「キュアメイドカフェ」の立ち上げにも携ったそうですね?
金杉「そんなこんなで、美少女ゲームを制作していくわけですけども、『Piaキャロットへようこそ!!2』を制作する時に、ファミレスの制服ってリアルの世界ではそんなにかわいいものが存在しないじゃないですか。なので『メードとか入れたいね!』って提案して、メードのコスチュームをファミレスという設定の中に投入したんです。そしたら、作品が大ヒットして、その余波でメードブーム的なものが大きくなっていったという流れがあります。その後、そのタイトルを具現化した『Piaキャロ喫茶』をリアル店舗でオープンする話を頂き、秋葉原のガシャポン会館にコスパさんコスチューム制作のもと、ブロッコリーさんが期間限定的に『Piaキャロ喫茶』をオープンしました。その後、コスパさんがそのスペースを引き継ぐことになりまして、『メード喫茶とかやろうと思ってるんだけど、どうですか?』ってお話しが舞い込んできまして、『ああ、ついにそういう時代が来てしまったんですねー。面白すぎるので混ぜて下さい。』ということで、2001年3月、日本で最初のメード喫茶『キュアメイドカフェ』をオープンするに至ったわけです」
■ J-POPコンプレックスからの脱却とA-POP
-さて、次に、どういった経緯でゲーム音楽にも携わるようになったんですか?
金杉「そうですね。人の企画でシナリオを書くなどの下積みを経た後、自分の企画を作ることになり、その際、『音楽はこうしたい!』っていう思いがあったんです。なので、当時の音楽制作のチームから、場面が変わるときにその場面にマッチした音楽をあてていくという手法を勉強していた時、ちょうど、音楽制作チームのメンバーがどんどん抜けちゃって、制作ができない状態に陥いっちゃったんです。そうしたら、会社の上のほうから『金杉君、音楽作れるんだったら、やって下さい』ということになりまして、自分で音楽チームを作って制作を始めました。ゲーム音楽を作るという事に関しては、そこが出発点ですね」
-なるほど。金杉さんは「A-POP」を提唱されていますよね?具体的に 「A-POP」ってどういうもののことを指してるんですか?
金杉「そうですね。いろんな言い方ができますが、アニメの『A』とアキバの『A』っていうのが1番分かりやすいかな。真空管やトランジスタの時代、家電の時代を経てPCの街になったアキバが、90年代後半以降コンテンツの時代、聖地と化していきます。TV、PCを問わず日本で1番たくさんのモニターがディスプレーされてる街で、ここから流れてくる音楽といってもいいかもしれません」
-ほかには、例えばアニソン、ゲーム音楽、歩行者天国などのストリートのアーティストとかも入りますか?
金杉「そうだと思いますよ。あんまり、どこからどこまでって、ないと思っています」
-なるほど。どうしてA-POPの提唱を始めたんですか?
金杉「いろいろな背景があるんですけど、そもそものきっかけは、アニメやゲーム系を聴いている人、携わっている人、アーティストも含めてですが、J-POPにコンプレックスを持ってる人たちが多かったでんすよね。いまでは大分意識が変わってきたと思いますが、そういう意識とか空気を変えていきたいなぁっていう思いがありました。音楽にヒエラルキーとかないと思ってるんですよ。例えば、『ロックよりJazzの方が古いからエライ』とか、そういうのって、結局、非常にアカデミックな世界の体系付けに過ぎないと思ってて…。古典音楽もロックもJazzもJ-POPもアニメの音楽も美少女ゲームの音楽も別にヒエラルキーはないですよ。好きかキライか、それだけじゃないですかね」
-確かに、そういう風潮はいまだにありますね。
金杉「ありますよね。ここ数年、『萌えブーム』と『美少女ゲーム原作のテレビアニメ』っていう2つの大きなムーブメントがありますが、後方の美少女ゲームからテレビアニメになるにあたり、美少女ゲームで歌を歌っていたアーティストが、そのままテレビアニメのボーカルとして起用されるわけですよね。そうすると、彼女たちからしてみれば、『アダルトゲームからようやくTVアニメに行けた!』っていう気持ちになるわけです。だけど、アニメ主題歌の次はJ-POPに行ってしまおうとする人たちがいて、『それってどうなの?』って僕は思います。『美少女ゲーム歌って、アニメ歌ったけど、最終的にはJ-POPのシステムに回収されちゃうの?君らは?』と。そうじゃなくて、これまで応援してくれたファンや業界のために、A-POPとして拡張していこうよっていうスタンス、志をもって欲しいと思いました。アニソンやゲームの主題歌、声優さんのCD、ストリート、同人CDも含めて、J-POPの既存のシステムを使わずに、せっかくここまで多くのアーティスト、マーケットが育ってきているわけですし…」
-そうですね。せっかく大きなくくりで1ジャンルとして胸張れるレベルまできているのに、回収されちゃうのはもったいないですね…。
金杉「ですよね。だけど最近は、J-POPよりもアニソンを歌っているアーティストやゲーム主題歌を歌っているユニットに憧れて音楽の世界に飛び込んでくる、新しい世代が生まれ、ようやくA-POPの生態系を整える地場ができつつあるかなと思います」
-アキバ王の寺尾さんも「これまでは、声優やアニソンというとオタクのイメージが付いていて嫌がる人もいたけど、最近はそういったイメージをもたず、アニソンやゲームが好きということを隠さない第4世代が出てきたことで新しい流れができている」とおっしゃっていました。
金杉「まさに、第4世代ですよね。『A-POPは、21世紀のロックだ』と僕は言い張ってるんです(笑)。J-POPって、米国在住のアーティストが歌っても、J-POPにならないじゃないですか。なぜなら、J-POPの『J』が『日本』という国境を引いてしまってるので。その反面、A-POPは国境が引かれていないので、どこの国の人が歌っても、スピリッツさえ持っていれば、ロシア人もイギリス人もOKなわけです。これから、日本のジャパニメーションやゲームが今以上にワールドワイドに展開していく中で、当然、A-POPも浸透していって、『A-POPをやりたい』っていう世代が各地から出てくると思います。ワールドワイドに広がる可能性は十分あると感じます」
-では、具体的にA-POPを広めていく上で、どういった活動をされていますか?
金杉「1つはドワンゴ社として、大型イベント『アニメロサマーライブ』を2005年から開催しているんですが、3回目となる今回は、サブタイトルをA-POPの頭文字を起用し『Generation-A』と題して、始めてA-POPという言葉を大々的に打ち出しました。また、ドワンゴ・エージー・エンタテインメントではA-POPに特化したレコード会社として進んでいこうという共通認識で取り組んでいます」
■ A-POPユニット「クサカンムリ」とMADの関係
-なるほど。そこで、ガールズユニット「クサカンムリ」をプロデュースし、彼女らを軸にA-POPを広めていくって感じですか?
金杉「そうです。『Pia♥キャロットヘようこそ!!G.P.』※のオープニング、エンディングを歌う『クサカンムリ』というユニットですが、まさに第4世代。メンバー自身がA-POP好きです。『A-POPユニット』として活躍しつつ、ライブを行いつつ、A-POPをPLAYするDJイベント等もやっていきたいと考えています。メンバーのコたちはフツーにKOTOKOさんや桃井はるこさんのファンだったり、カラオケで歌ったりしてます。A-POPヲタですね」
※キャラクターゲーム『Pia♥キャロットヘようこそ!!』シリーズの最新作。PCゲームにて2008年1月25日発売。コミック化などの各種展開が決まっている。
-「クサカンムリ」のレーベル「TeraBytes Records」では楽曲のMADを推奨されているそうですね。通常、MADとかって、一般企業ではいい顔しませんよね?
金杉「古いですよね。そういう考え方。J-POPのレコード会社じゃ対応できないでしょうね。2種類の楽しみ方があって、純正のものを買ってコレクションする喜びと、純正のものをカスタムしていく喜びみたいなものがあって、MADに限らず、車の改造とか、自作PCみたいな、『カスタマイズ』だったり、『リミックス』『エディット』だったり、昨今は後方である、カスタマイズしたりエディットしていくっていう方向にPCのカルチャーは向かっていると思います。初音ミクなんかもそうですね」
-どうしてだと思います?
金杉「与えられたものだけで遊んでいることに、満足できなくなってきてるからじゃないですかね。ここ最近の動画投稿サイトに上がっているMADは高クオリティーな作品が増えてきていますが、ここ最近のMADブームは、女子の参加が大きく影響してますね。6~7年前のPC系やゲームの素材を使ったMADって、ほとんど男子が作ってたんですけど、最近は女子がものすごい勢いでMADを作ってますよ」
-今まで、限られた人たちがやっていたものが、だんだん色んな人がやるようになってきてるんですね。
金杉「そうですね。恐らく、ツールなどがより一般的になってきたっていうことが要因かもしれません。音楽業界で言うなら、安いシンセサイザーが出たりすると、その機材を使った音が一気に広がりますが、それと同じような流れがあると思うんです」
-では、「クサカンムリ」ののデビューシングル「顔面ぱんち」のラストの曲はボーカルのみでしたが、これは、さきほどおっしゃっていた「どんどんカスタムしてください」ということですか?
金杉「そうです。できればアカペラに初音ミクものせてリミックスして欲しいなぁと思います。また、リミックスでなくとも、ポッドキャストとかやられてる方のなかで、音楽をかけたいけれど権利関係がよくわからない、かける曲がないという方にも、使っていただければと思います。アーティスト名と曲名さえMCで言って下さればOKです」
■ 魑魅魍魎のワンダーランド-秋葉原
-ところで、A-POPを提唱している金杉さんから見た秋葉原って、どんなイメージですか?
金杉「秋葉原って、マニアックな階層、様々なレイヤーが積み重なっていく街ですね。魑魅魍魎(ちみもうりょう)のワンダーランド(笑)。最近、また高級オーディオも鉄道も復活してますよね。かつてのオーディオ世代が裕福になって舞い戻ってきてるんでしょうね。面白いですね、秋葉原は。
それと、歌う人、踊る人、コスプレする人、その他自己アピール人など、路上パフォーマンスがどんどん過激になってますよね(笑)。街自体が劇場化、あるいは、メディア化してる証拠ですよね。1~2年前から看板が急増してますよね。建物の外側だけかと思いきや、建物の内側の壁面まで広告代理店が入ってメディア化していたりしています。そのうち、電柱にQRコードが入ったり、小さなモニターが埋め込まれたりするんでしょうね(笑)」
-それは新しいですね(笑)。
金杉「ロボットブームもきてるじゃないですか。一方で初音ミクもブームですよね。ということで、私個人的には、歌って踊る女の子メカみたいなものを期待してます(笑)」
-確かに、ありそうでないですね(笑)。
金杉「A-POPの文脈とロボットの文脈と美少女・萌えの文脈が1つになった『歌って踊る女の子メカ』が、秋葉原発みたいなかたちでいずれ出てくると思います。ネット経由で新曲の踊りのパターンとか音楽データをプログラミングできる…そんなイメージです。で、ニコ動で新曲を発表して、そのメカを持ってるユーザーがアイテム課金的に新曲のデータや踊りのアルゴリズムを手に入れることができて、自分でカスタマイズもできて…みたいな時代に早くなって欲しいです。どのメカも量産型なんだけど『俺の●ちゃんと、お前の●ちゃん、ここが違うでしょ。俺のここ別注なの』みたいな会話が普通に交わされていたり(笑)。楽しみですね」
-本日は、ありがとうございました。
【あとがき】
クラブ業界からPCゲーム業界に転身し、発想の転換を図ってから早十数年。新しい流れを取り入れ、発信していくというスタイルを貫き通す金杉さんの新たな挑戦=A-POP確立への道のりはこれからも続く。そんな金杉さんの活躍に今後も注目していきたい。