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「もやしもん」オリゼーがナビゲートする「菌類のふしぎ」展-右も左も菌だらけ

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■日本人と関わりが深い菌類

菌類のふしぎ「菌類」とは、きのこ・カビ・酵母の仲間のことをいう。基本的に、菌糸という糸状の構造からなり、分解と吸収によって栄養を得る生物。菌類は我々の生活に深く関わっており、パンやシイタケ、お酒、味噌、醤油、かつお節なども菌類の働きからでき上がっている。また、医療の世界では、菌から作られる薬もある。日本食に欠かすことのできない味噌や醤油など、日本人は何かと菌にお世話になっているにもかかわらず、菌類を学校教育で扱うことは少なく、社会的な認知度は十分とは言えない。

もやしもんしかし2004年、講談社「イブニング」で連載がはじまった石川雅之さん原作の「もやしもん」が菌類のイメージを変えた。同作品は菌が肉眼で見える主人公を中心に、菌と人間が繰り広げる農業大学を舞台にした学園マンガ。同作品に登場する菌類のポップで意外性のあるデザインが今までの菌に対するイメージを払拭し、男女問わずヒット。単行本は売上300万部を突破した。また高松塚古墳のカビ被害など、さまざまな点から菌の存在が認識されつつある。

■ 「菌類のふしぎ」展-オリゼーがナビゲーターに

菌類のふしぎ今回の「菌類のふしぎ」展では、約500点の標本や資料を用意。菌類の多様な形や働きを紹介し、菌類の素顔に迫る。会場はアスペルギルス・オリゼー(A・オリゼー)などの「もやしもん」に登場するキャラクターがナビゲートするのが特徴。

展示は第1会場と第2会場に分かれ、メーンの第1会場では肉眼では見ることのできない菌類の世界を覗き、菌類の意外な働きを発見する場として展開。展示会場を巨大なプレパラートに見立て、顕微鏡を覗いたような有機的で広がりのある平面構造に仕上げる。展示ベースには強化段ボールを使用。自然素材を用いたことで「やさしい」雰囲気を演出する。第2会場はお天気キャスターの森田さんによる菌類と天気の関係を紹介するコーナーや小林路子さんによるミニギャラリー、「もやしもん」の原画コーナーを設ける。また「もやしもん」のグッズコーナーも併設され、会場限定の「でかモネラソフトビニールフィギュア」(海洋堂製)、もやしもんのキャラクターがナビゲートするオフィシャルガイドブックなど限定グッズを販売している。

屋内イメージ原画コーナー会場限定グッズ

もやしもんまた第1会場のいたるところに、「もやしもん」のキャラクターが落書きされている。これは原作者の石川雅之さんが、会場内を回った際、遊びで書いたという。うーん、「かもし」てしる。

■楽しく学べる7章構成

菌類のふしぎメーンの第1会場は7章構成で、順を追って菌類について学ぶことができる。内容は以下のとおり。

1章「菌類の誕生と多様化」=地球の歴史をたどりながら、菌類の進化の歴史を紹介
2章「菌類の位置付け」=生物の世界における菌類の位置付けについて紹介
3章「菌類ってどんな生物?」=多様な菌類の分類と実生活との関係を紹介
4章「光る菌類のふしぎ」=光を放つ菌について紹介
5章「菌学者の部屋」=代表的な菌学者の業績を紹介
6章「森をはぐくむ菌類たち」=自然界における菌類の主な働きを紹介
7章「菌類と地球の未来」=菌類の生物との関わりを紹介

このほか、きのこのにおいをかぐコーナーや、菌を顕微鏡で覗くコーナーなど、体験しながら学習できる企画も。中でも「もやしもん」の特別展としてかもしているコーナーもある。

もやしもん特別展歴代学者に樹教授!?実際に触ることが出来る

今回は7章の中から特に注目の展示について、いくつか紹介する。

■菌は動物?植物?-菌類の位置付け

系統の花そもそも菌とは動物なのか、植物なのか?初期の研究では動くか動かないかによって生物を動物か植物か分類する「二界説」が主流だった。その説に当てはめると、菌類は動かないので植物に分類されていた。しかしその後、細胞構造や、栄養のとり方などにも注目して生物を5つに分類する「五界説」が誕生。これにより、菌類は動物とも植物とも異なる独自の分類として位置付けられた。DNA情報をもとに系統関係が解析されるようになると、菌類は植物よりもむしろ動物に近いということもわかってきた。

■日本初公開世界最古のきのこ-菌類の誕生と多様化

最古キノコおよそ15億年前、原核生物(核膜なし)が他の原核生物の細胞に取り込まれることによって、膜に囲まれた核を持つ真核生物が誕生した。真核生物の中には、安定した栄養を確保するために、宿主となる細胞に寄生するものが現れた。これが菌の祖先と考えられている。今回は日本初公開となる世界最古のきのこ化石「パラエオクラバリア」が展示されている。1億年前の琥珀から発見されたきのこの化石で、原生のソウメンタケ類に類似した形 態をしている。

■妖しく光るきのこ-光る菌類のふしぎ

ヤコウダケきのこの中には発光能力をもつものがある。何のためにきのこは光るのか?さまざまな説があるが、メカニズムは未だに解明されていない。同展では、発光きのこの代表である「ヤコウタケ」を栽培した実物展示を中心に、光るきのこを紹介。ヤコウタケは光るきのこの中でも、もっとも強い光を放つと言われている。実際の展示では光るところを確認することができる(光るきのこは栽培が難しいため、実物展示ができない日も)。

■「かもす」と「麹」と「もやし」-菌類ってどんな生物?

麹サンプル漫画「もやしもん」の中によく出てくる「かもす」という言葉。この「かもす」の語源となったのは口噛み酒にあると考えられている。人が米を噛むことで、米のデンプンが唾液中の消化酵素によって糖に変わる。それに空気中の酵母が付き、発酵がはじまる。そこから「噛む」という意味の「嚼むす(かむす)」から「醸す(かもす)」になったと言われている。

菌類のふしぎその「かむ」には「カビ」という意味もあると言われている。これが「かむ」という意味を残しながら、「生える」を意味する「たつ」と合わさり「加無太知(かむだち)」という言葉になった。これは米麹菌各種にカビが生えたものを意味する。そこから「かむだち」→「かむち」→「かうぢ」→「こうじ」となり現在の「麹」になったといわれている。「かもす」も「麹」もルーツは同じ所にある。

オリゼーの実験一方、「もやし」とは種麹のことを指す。種麹は、A・オリゼー(コウジカビ)の胞子を集めた麹をつくるための麹。麹の中にはA・オリゼーが作る酵素が蓄積され、いろいろな食品の加工に使われている。麹を使用した代表的なものに日本酒、みりん、味噌、醤油などがある。タイトルの「もやしもん」とは種麹屋のこと。ちなみに主人公の沢木 惣右衛門 直保は種麹屋の息子という設定。

■展示台にもやしもんキャラを落書き-石川さん

細矢剛さん開催に先立ち行われたプレスプレビューで監修を務めた細矢剛さんが登場。「何かと誤解を招きやすい菌類について、正しく理解していただくことを主眼に、この展示会を開催した。そこで、さらに親しみを持ってもらうため、『もやしもん』のキャラクターにナビゲートしてもらった。そもそもこの展示会は暖めてきた企画で、それが現実味を帯びたのも『もやしもん』の存在が大きく、菌類の認知度も高まった。ファンの方はさらに深く、初めての方は作品の雰囲気も含め楽しんでもらえれば」とスピーチ。

石川さんまた、原作者の石川雅之さんもゲストとして迎えられ、「これをきっかけに菌類の事を多くの人に知ってもらうことは科学博物館にお任せするとして、僕は漫画家として来場者の方が楽しめればいいなということだけを考えてみた。展示台が段ボールなので、マジックでいろいろな所に『もやしもん』のキャラクターを落書きした。子どもたちはキャラクターを、おとなは展示を楽しんでもらえれば」と話していた。

【おわりに】
菌類のふしぎ
菌類とは私たちの生活にとって欠かせない存在で、麹から作られる食品や、ペニシリンなどの薬は菌類が作る物質から開発されたもの。それ以外にも菌類は自然界の調和者でもある。栄養の流れを調整し、増えすぎた生物を間引いて自然環境を潤滑にする役割を担っている。まさに「環境の調和者=菌類」といえる存在となっている。今回では紹介しきれなかった菌類の魅力も多くある。学びの秋、訪れて楽しく学んでみるのはいかが?

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