■ 少年時代からの思いが鉄道模型店を開くきっかけに
-太田社長が「鉄道」というジャンルに最初に興味を抱いたのはいつごろだったのですか?
太田「一番初めは小学校高学年の時です。当時、ちょうどブルートレインや特急ブームで、東京駅なんかじゃ『○番線に○列車がくる』というと、カメラ小僧がぶわーっとホームの端っこに大移動していたような時代だったんですよ。そこで鉄道と鉄道模型に興味をもったのがスタートです。そのころのNゲージはとても高価で、学年×100円の小遣いだった自分には、なかなか手の届かない存在でした。仕方がないのでNゲージを持っている友達の家に行って遊ばせてもらったりして過ごしていたんですが、小学校5年生になったころ、半額セールで売っていた1台をお年玉や貯めたお小遣いでやっと買うことができたんです。それがきっかけですね。以降、夢中になって遊びましたが、中学校に入り周りの友達が他のことに興味を持ち始めたのと、当時は鉄道模型=暗い趣味というイメージがあったので、自分も中学・高校は『鉄道が好きだ』と言えなくて…(笑)。そうした時代がずっとあり、また、鉄道に戻るきっかけとなったのが大学生の時。たまたま閉店するおもちゃ屋さんの前を通りかかったら半額セールをやっていて、ふと小学生のころを思い出し買ってみたんです。そしたら、鉄道模型熱が再燃してしまい、どんどん集めるようになり、それが高じて仕事になったという感じです(笑)」
-小さいころの体験から、今、こうやってNゲージに囲まれているんですね(笑)。
太田「そうですね。自分が子どものころは中古市場が一般的ではなかったので、なかなか手が届かず悔しい思いをしていました。それで、現在の若年層には中古品を少しでも安く提供したいと思ったことが、ポポンデッタを始めるきっかけになりました。最近では、うちの中古品で売り物にならなくてもまだ使える状態のものを、鉄道部がある学校に希望があれば差し上げて、鉄道模型作りの足しにしてもらうなんてこともやっています。ジオラマとかを完成させてくれた学校も何校かあって、写真で報告を受けたり文化祭に呼んでもらったりしました。そういうのを見ると嬉しいですね」
-なるほど…そうした活動もされてるんですね。
太田「ええ。正直、鉄道模型は衰退産業ではないかと思っているんです。今は多少盛り上がっているんですが、鉄道模型ファン層というのは、基本的には団塊世代の方が趣味でやっていたり、昔、鉄道模型に憧れていた30代・40代の人たちが、購買力をもって戻ってきているというのが現状なんです。私たちが子どものころは、遊ぶ時は外で遊んだり、仲間と集まって遊んだりするのが主流だったので、遊びの選択肢の中で鉄道模型を選ぶ比率がパーセンテージ的にも大きかったんですね。でも、今の若い人の場合、ゲームもテレビもDVDもネットもあるから、鉄道模型をチョイスしてくれる人が減っているのではないかと思っていまして…。私たちが子どものころは、街の模型屋さんに行くと鉄道模型が走る姿を見ることができて『格好いい』と憧れを抱いたりもしましたが、そういうことを体験しない子どもたちは将来大人になったときに鉄道模型というジャンルに来てくれるんだろうかと心配しているんです。そんなことから、このままでは衰退産業になってしまう懸念があるので、少しでも触れる場所を作りたいと思ってうちの2階に大型ジオラマを設置しました。秋葉原って、鉄道模型を取り扱っている店舗が12店舗くらいあるんですけど、実際に走行させるところまでやっているのはうちだけなんです。週末はジオラマ教室もやっています。単に売るだけじゃなくて、楽しさを伝えないと飽きてやめていってしまうんじゃないかと思いますので。実際、うちで中古を買い取る際に聞くお話で、これを機に鉄道模型から離れるというお客様も結構いらっしゃるんです。やめる理由を聞いてみると、開封せず飾っているという方が多いんです。結婚などの環境の変化や、女性パートナーの理解が得られなかったとか、コレクターの方なんかでは出てくる新製品を買い続けることに追いついて行けなくなったりしてしまったという方もいました。つまり、開封して実際に走らせていない人とか、ジオラマを作るところまで手を出していない、購入するだけの人が、鉄道模型をやめてしまう人が多いんです。でも、鉄道模型は走らせたり、ジオラマと一緒だったりすると女性とかも興味が持てますし、家族で遊べる趣味でもあるので、そういうことを知ってもらうためにもジオラマを設置しているんです」
-大型ジオラマには、そうした意味が含まれているんですね。サイズも結構大きいですよね。太田社長も作業するのですか?
太田「はい。自分でも1週間に1回ペースで制作しています。大きさは、幅が2.5メートルくらいで、奥行きが5メートルくらい。それが2段構えになっていて同時に10編成走らせることができます。どうしても、秋葉原は場所代が高い地域なので、なるべくコストを抑えた空間で、出来るだけ大人数遊んでもらいたいと思ってそういうレイアウトにしました。目指しているものが景色と鉄道をうまく両立させた女性にも指示されるレイアウトなので、景色の部分をとりつつ、線路も多くレイアウトできる2段重ねにしたんです。川口の商業施設にオープンした店舗のレイアウトも自分で制作しているんですが、川口の店舗は女性や主婦、家族連れなどのライト層の方が多いので、そういった方たちにも受け入れられやすいヨーロッパの街並みを作りました」
■ お客様に満足いただくための店舗運営
-ところで、ポポンデッタさん出店当時は、鉄道模型の中古市場が温まっていない状況だったかと思うのですが、やはり苦労はありましたか?
太田「そうですね。初めはネット通販ではなくダイレクトメールからスタートしたんです。鉄道模型雑誌とかの『売ります・買います』欄で住所を載せてる方なんかをピックアップして、ダイレクトメールを出してました。その時に、閉店したお店からまとめて買い取った商品があったんです。私としては新古品みたいなものなので、買い取ったものを全て新品同様として販売したんですね。そうしたところ、生産時に傷が入っているものや、ケースの擦れで傷がついてしまっている商品などがあり『新品同様と言っているけど、こういうところに傷がある』とか、色々なクレームを経験しました(苦笑)。その経験を元に今では、走行・ボディー・付属品という3つの項目についてA~Eの5段階評価と、それで評価しきれないポイントは備考欄に記述するということをやっています。そこに行き着くまでが大変でした。店頭で販売していればお客様自身が目で確認できますが、通信販売では、それができないじゃないですか。しかも相手はコレクターの方なので、すごく厳しいんです。ですので、うちも商品に対する査定はすごく厳しくしています。今ではその甲斐あって、通信販売のリピーターの方は、『Cってなってるけど、どこが傷かわからなかったよ』なんて意見を頂いたりもしています」
-相当厳しく、シビアな査定をされているんですね。
太田「あとは、今でこそデーターベース化されていますが、かなりのアイテム数があるので、最初のうちは、本当は高価なものなのに安く売ってしまったりと、多くの失敗を繰り返していましたね(苦笑)」
-ところで、ポポンデッタさんは、外観がホワイトカラーをベースにした壁とガラス張り。店内は女性のスタッフが多いなど、他の秋葉原の店舗とはちょっと異なった雰囲気ですが、何か理由があるのですか?
太田「そうなんです。実はかなり意識的にやっているんです。鉄道模型店の一般的なイメージって、詳しい店員がいて、常連客がいて模型談義をしていて…そういったイメージだと思うんですよね。それが、私はすごく嫌だったんです。というのは、自分の経験上、鉄道模型店って気軽に質問したり気楽に商品を手にとったり、そもそも入店しづらいというのがあったんです。そのようなお店だと、『女性の理解を得て、家族ぐるみで楽しんでもらう』という、うちの目標を達成できないので、そこは意識的に入りやすい店作りをしています。スタッフ募集に関しては、すごく詳しい常連さんが店員になるというケースが鉄道模型店には多いですが、うちは普通のアルバイト誌とかで募集をかけるんです。女性比率が多いのは、接客が良いであろうという人を基準に採用しているので、そうすると自然と女性になってしまうんですよね。最初はそこらへんのことがわかってもらえず、うちの社員とかにも『女性が多いのは、社長の趣味ですか』とからかわれたりもしましたね(笑)。でも、実際、女性スタッフを多く配置した効果も出ていて、女性のお客様からは、やっぱり女性スタッフの方が気軽に話せるという声も聞かれたりします」
-そうですね。鉄道模型店を訪れると、店員さんと常連さんが談話に華を咲かせちゃってて、聞こうにも聞けないなんてことがあったりしますね(笑)。この「ポポンデッタ」というお店の名前もかわいらしくて独特な雰囲気がありますがこれも何か意図しているんですか?
太田「そんなに深い意味はないんですよ(笑)。『○○模型店』とか『鉄道』って名前をつけず、鉄道模型に興味がない人でも入店しやすいようにと色々考えて、当時私が飼っていた熱帯魚の名前の『ポポンデッタ・フルカタ』からもらって『ポポンデッタ』にしました。もうちょっと考えた名前にしておけばよかったって、反省するときもあります(笑)」