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徹底した効率化をモットーに躍進を続ける「ECカレント」-ネットショップ成功の秘訣とは

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■ストリームが流れに乗るまで

-今年の7月で会社設立から約10年が経過しますが、御社の変遷や苦労されたお話などをお聞かせください。

Photo1土屋「1999年、初めはパソコンを香港に輸出する事業からスタートしました。当初は海外輸出を専門にやっていたのですが、ちょうどそのころ、ネットの黎明(れいめい)期で周りにも競合がそれほどいなかったため、『ECカレント』を始めたという流れがあります。とにかく資金がないから、次の仕入れをするお金がなかったわけです。そのため、『先に代金のお振り込みをお願いします』と言って、軍資金を調達するような流れを作って運営していました。その後、我々は集客の手段をもっていなかったので、『価格.com』に出店し、そこから『ECカレント』への導線をとり、後に、いろいろな商材を扱うようになったわけです。ちなみに、当時、1番ネットで売りやすかった商材って、何だと思います?」

-何ですか?

土屋「パソコンなんですよ。というのは、皆さん、自分が買いたい商品をわかってましたし、うちのお客さんなんかは、10年前からネットをやっているようなパソコンヘビーユーザーが多かったんで、商品に関する質問なんかもほとんどなかったんですよ。そういった面で、1番売りやすい商材でしたね。プリンターなどの周辺機器も一緒に販売することができましたし。平成12~平成16年の約4年の間に、うちの売り上げがぐぅーっと上がってるのは、ほとんどパソコンの売り上げです」

-やはり価格.comでの価格競争に勝ってということでしょうか?

土屋「そうですね。価格.comでの集客に成功したことと、パソコンがネット販売の商材に適していた。そして、パソコンを使う皆さんも慣れてらっしゃるような方たちだったので、うまくユーザー側のニーズやインフラがマッチして、そこに乗っかれたんですよ。だから、正直、そんなに苦労はしてないですね(笑)」

―なるほど。

土屋「ネットショップをやっていく上で必要なインフラが3つあるんです。まず、ネット回線が早くなること。次に、物流。ネットビジネスが多くなるにつれて物流業者が、いろんなサービスを作ってくれたわけです。代引きシステムなんかはネットショップの増加に併せて、提供開始したんでしょうね。あと1つは決済。ネットバンキングができたことで、ユーザー側は24時間、いつ買い物しても決済ができてしまうということで決済が格段に早くなったわけです。ネットバンキングの登場は大きな影響を及ぼしましたね」

Photo2-確かに、ネットがあるのでわざわざ銀行に行ってATMで振り込んだり…あまりしないですよね。

土屋「そうですね。本当はカード決済を導入したいんですけど、カードだと手数料がとられてしまうので、なかなか導入が難しいんですよ。ですから、別途、クレジットカード決済機能を加えた姉妹サイト『カレントプラス』を設けています」

-ちなみに、他社との差別化はどうされていますか?価格.comに出店していますが、以前、全部価格をチェックして上位表示できるよう人間がチェックしているというのをテレビか何かで見ましたが。

土屋「そうですね。『顧客に目に見えるかたちで、どの程度差別化をしているのか?』と言われると、そんなにはないんですよ。うちの商材が価格.com上で、サイトの上位に表示されるようにというのは意識しています。じゃあ、上位表示するために、膨大な商材の価格を1個1個、人がチェックしているのか?というと、これは、人間の目ではやはり限界があるので、ある程度の価格にくると自動的に価格を更新していくという独自のシステムを取り入れています。ですので、他社より反応は早いかもしれませんね」

■ 波に乗る企業と、沈む企業

-差別化という点で、昨年、一時期は勢いがあったS社が自己破産した一方で、御社は上場しましたね。この「浮く企業と沈む企業の違い」は何でしょうか?

土屋「そうですね。S社がダメになってしまった原因は、はっきりはわかりませんが、やっぱり効率でしょうか。うちのモットーって効率なんです。システムを駆使して、注文から物流のデリバリーまでを一貫したシステムで行うことで効率化し、その分商品の値段を安くして、お客さんに買って頂くということをずっと貫き通してきたわけですよ」

-S社はリアル店舗も出していましたしね。

土屋「S社は元々リアル店舗から始まったところですから、そういった意味では店舗で培ったノウハウを使ったネットショップっというところだったんでしょうね。我々も、リアルショップのノウハウを持っているんですけど、逆に知ってるからこそ怖いという思いがあります。ですので、いまだかつて、社内で『店舗をもとう!』という話は出てないですね。それと、僕が個人的に思う決定的なちがいは、やっぱりお客さんを大事にしてなかったんでしょうね。うちは迅速なデリバリーをモットーに、そこを崩さず10年間やってきました。在庫がないものは、ないんですよ。時間かかるものはかかる。これについてはお客さんも、納得してくれるわけですよね」

-なるほど。安さだけでなく、サービスの質をおとさないということを念頭に置いているわけですね。

土屋「最近、お客さんは『安さ』を優先順位の上位に置かないんですよ。我々も安さについては、優先順位は低くなりつつあります。付加価値をつけた商売をしていかないと、生き残れないのが現状ですから」

-確かに僕自身も、値段よりも、早さや安心感を重視してネットショップを利用してますね。

土屋「ですが、本当のところを言うと、S社が倒産してしまい、非常に困ったんですよ。『S社がいなくなる=商売敵がいなくなる』。そうなると競争原理が働かなくなってしまうんですよね。なので、急にS社が倒産してしまったことで、うちは『商売敵はどこ?』ってキョロキョロしてしまうような状態になってしまった時期もありました」

-そのような変遷を経て、昨年、マザーズに上場されたわけですが、上場された資金は、どこへ投入するんですか?

土屋「たくさん増資したわけでもないので、集めた資金はシステム面に投入するつもりです。あとは、今は家電が売り上げシェアの40%くらいを占め、パソコンのシェアが20%くらいしかないので、パソコンに特化したネットショップから総合ネットショップへ展開するため、品ぞろえを多様化していく予定です」

-家電は何故、取り扱いを始めたのですか?

土屋「そうですね。今、1番のお客さんって、男性よりも女性で、家電を始めることによって、家電の決定権を持っている主婦層を取り込めたんですよ。旦那さんが以前うちを利用していたことから、奥さんに『ここで買えるよ』っていう流れが出来て客層が広がってきましたね。あと、理由として大きいのは、パソコンとかって一般への普及率が50%を越えてある程度に達すると、売り上げの伸び率は横ばいか、もしくは下がるんですよね。それがちょうど、3年くらい前に『パソコンはもう売れない』という時期があり、それでベスト電器とフランチャイズ契約を結んで、家電の仕入れを開始したという経緯があります。家電というのは、うちが大手メーカーに直接行ったって、家電をわけてくれないんで仕入れが難しいんですよ。我々もメーカーと直接取引ができるようになっている。このように転換していくかについては色々議論を重ねました。それがなかったら株式公開もおぼつかなかったかもしれませんね」

-ちなみに、「ECカレント」の今1番の売れ筋ってなんですか?

土屋「やはり、デジカメとプリンターですかね。最近は、デジカメとプリンターをワンセットで考えている方が多かったり、若い女性のデジカメ所持率が高いからでしょう。デジカメの価格が3万円~4万円まで下がってきていますが、その価格帯って、女性心理から言うと迷わず購入する金額らしいんですよね。ですから、デジカメはうちでも月に1,3000台くらいは売れてますね。あとは、一眼レフを30代以上の男性の方が買ってますね。そっちの方が値が張っていいんですけど(笑)。あとは、液晶テレビ。去年、一昨年あたりは32~37型が主力だったんですけど、今は値段が下がってきて、同じ値段で42型が買えるようになってきてますから」

■ ライバルはAmazon

-家電量販店戦争が起きていますが、それについての御社の立ち位置はどのようにお考えですか?

Photo3土屋「ネットショップの話をすると、家電量販店はみなさん、自分の店舗ブランドの名前を使ってネットショップをやってるじゃないですか。そこでは、例えばパソコン1台に対して、店舗とネットで価格を変える、いわゆる『一物二価』っていうことができないんですよね。そうなると、価格的には我々の方が有利なんですよ。ただ、家電量販店は膨大な物量を持っているので、本気を出されたら、我々の脅威になる可能性はありますね」

-では、これからの御社のライバルはどこですか?

土屋「そうですね。売り上げやビジネススタイルがちがうので、何とも言えないところですが、形としては外資系のアマゾンでしょうね。でも、やっぱりアマゾンは立派だと思います。前述の3つの要素の中で一番大変な『物流』を、先を見越して費用と時間かけて構築し、今のシステムを作り上げたわけですからね。逆にうちの、ライバルってどこだと思います?」

-そうですね。僕的にはライバルというよりも、どちらかというとリアル店舗同士の戦争を御社やアマゾンがちがう場所から見守ってるイメージでしょうか。逆の考えをすれば、店舗の資本がネットショップをどう攻めていくかも気になりますね。

土屋「それも、なくはないかもしれませんね。変な話、どこの量販店がうちに手を出すかどうかって話になりますよね(笑)。ただ、我々は独立系で10年やってきた分、それだけ自分の会社にも愛着があるので、これからも自分たちだけでやっていきたいって気持ちは十二分にあります」

■ 異業種間の顧客利用

-逆に御社が、家電量販店を飲み込む可能性が、将来的にはあってもおかしくないかなと思いますが。

土屋「それも否定はできませんが、そうなるには我々が相当、力をつけなければいけませんね。ですが、我々、そんなに図々しい会社ではないので(笑)、色んなネットショップと提携してやっていくという道を今は考えています。例えば、日常雑貨を取り扱うことになった際、うちの社内にはパソコンばかりやってきたパソコンオタクのような人間ばかりなので(笑)、日常雑貨なんて扱えるわけがないんですよ。だったら、すでにその分野を手がけている会社と提携して、展開していった方がいいわけですよね。それに、顧客を共有できるじゃないですか。あとは、それとは別に異業種間の顧客利用。例えば、ある人が居酒屋にいけば居酒屋のお客さん。その人が家に帰って、うちで買い物をしてくれたらうちのお客さん。でも、お客さん自体は変わらないじゃないですか。なので、うちで買い物してくれたら、付与するポイントを使って居酒屋生ビール1杯サービスとか。そうやってお互いにお客さんを共有するということは、色んな商品をたくさん並べることと同じくらい重要なんです」

-お客さんにとっては便利だし、御社側では顧客の取り込みも図れますしね。

土屋「そうなんです。それに売り上げを上げるには、来客数を増やせばいいわけで、客足を増やすんだったら、異業種でもいいんです」

-先日の靴屋さんとの提携もそういうことですか?

土屋「そうなんです。試験的にやってみたんですけど、逆にうちから向こうへ流れたお客さんが多かったみたいです(笑)」

-将来的にはマイレージサービスなどの導入も考えてますか?

土屋「そうですね。ポイント制度をやってますけど、量販店のポイントとちがって、全部の商品に付与するわけではなく、ポイントを付けられる商品だけにポイントを付けているので、今後はあのポイントを別業種などと共有できるようにし、お互いに顧客を勧誘できるようにするということを、商品とは別の作戦として考えていかなければならないなと思っています。無理矢理売上げを伸ばそうという時代ではなくなってきているので、今後は、色んなところで付加価値をつけてお客さんに購入してもらって、その中からうちは利益をもらうという発想に変えていかないと会社は続かないと思いますね。お客さんに飽きられちゃいますからね」

-テレビショッピングなどのクロスメディア展開は今のところ考えず、本業のネットショップとして注力していくご予定ですか?

土屋「うーん。でも、喧嘩するつもりはまったくないので、カタログショップが一緒にやりませんか?って話を持ちかけてきたら、それはそれで、生き残るための一つの方法として問題ない話ですよ」

-モバイルへの注力に関しては、いかがですか?

土屋「非常に重視してます。携帯の型番が変わるごとにどんどん新しい機能がついてくるので、モバイル利用率って上がってくるんですよ。でも、今うちで扱ってる商材の中で携帯で買える価格帯のものって、限られてるんですよ。なので、逆に我々が女性向けに消耗品などを携帯で買えるように開拓していかなければならないですね。うちも一応、携帯サイトを展開してるんですけど、ほとんどがパソコンからの購入ですね。携帯電話のネットショッピングで買う単価って3000円~5000円でしょう。大きなものも売れないと思いますし」

■ 新規顧客層の獲得とECカレントのこれから

-誘導というお話しが出ましたが、メルマガが個性的ですよね?あれは、社内で書いているのですか?

土屋「あはは(笑)。ありがとうございます。あれは全部社内でやってます」

-思考錯誤されてああいったスタイルになったんですか?

土屋「1つの宣伝広告として発行していますが、『メルマガが面白い』ってわかってもらえるのは、商品を買ってメルマガ登録した人だけなので、うちで買い物をしたことない人はうちのメルマガもわからないじゃないですか。ですので、今年2月からちょうど新年度になりますし、ちょっと発想を変えて、宣伝広告に力を入れてやっていこうかなと。どこへ投入したら費用対効果が出るのか、ターゲットが難しいですね」

-ブランディングを目的にするか、サイトへの誘導を目的にするかにもよってちがいますし、地域による格差もありますしね。やはり首都圏の方が主な顧客ですか?

土屋「ええ。そうなんです。購買率で言うと関東が7割くらいで、北海道を除いた北の方ってものすごく利用率が低いのが現状です。地方の方はネットショップを利用された方が便利かと思うんですけどね。逆を言えば、そこにはまだ、客層が残ってるということになりますね。ですが、ライバルへ流れてしまうこともあり得ますので、我々にとっては怖いですね」

-ところで、皆さんにお聞きしているのですが、御社にとってアキバとは?

土屋「そうですね。この地域で仕事をし始めて15年ほど秋葉原の街を見てきていますが、ガード下の部品屋に始まり、家電の時代から、パソコンの時代へと変化し、昨今では中央通りを挟んで店舗の業種が分かれてきたり、ダイビルができたりといった変遷があって面白いですし、家電量販店戦争のことなどを考えると目を離せない街であるとは思っています。ただ、弊社自体はネットの会社ですので、電話線と電気さえ通っていればどこで事業を展開しようと問題ないので、本当はアキバにいることに固執しているわけではありません(笑)。ですが、メーカーや、取引企業などが集まってますので、秋葉原にいる方が情報のやり取りなどの面で、不利になることはないかなと思っています。『六本木ヒルズに移転しますか?』って言われたら、それはまた、ちがう話になりますし、『アキバを離れる意志はありますか?』って言われたら、それはないんですよね(笑)」

-あはは、そうなんですね。最後に、今後の目標をお聞かせいただけますか?

Photo4土屋「前述と重なる部分もありますが、これからは様々なジャンルのパートナー企業と組んで、家電、パソコンだけでなく、総合ショップとして展開していきたいですね。安価な価格だけではなく、さまざまな商材を投入して顧客の利便性を図り、リピーターになっていただく。それと商材をぴしっと決めていくこと。これは、売上げをいくら上げるというよりも、それを実行することで必然的にある程度の目標値の売上げは達成できるのかなあと。あと社内的な面では、システムと、内部の物流システムの効率化を図って24時間365日稼動できる体制を作っていきたいです。我々が寝ている間にお客さんが注文してくださってるわけですから、申し訳ないじゃないですか。『起きてろよ!』という話で(笑)。図々しいかもしれませんが、自分たちはネットビジネスを牽引していると思ってますので、先頭に立って、前述のような部分を構築していき、もっともっとネットショップというものが世の中に定着するよう努めていきたいと思っています」

-本日は、ありがとうございました。

【あとがき】

会社設立から10年でマザーズへ上場を遂げた「ECカレント」のストリーム。ネット時代の波に乗ったといえばその通りかもしれないが、荒波を超えてきたのは間違いないはずである。その成功の秘訣(ひけつ)は、コスト削減と顧客満足の優先というシンプルでありながら忘れがちな部分の徹底にあった。そして同社は次の荒波を乗り越えるべく新たな第一歩を踏み出そうとしている。ネットショップの発展のために奮闘する「ECカレント」に今後も注目していきたい。

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