リリース発行企業:マッキンゼー・アンド・カンパニージャパン
マッキンゼー・アンド・カンパニー(日本代表:岩谷直幸)はこのたび、日本の製造業がAI・デジタル技術を個別の実証実験やツール導入にとどめず、全社的な競争力向上につなげるための条件を分析した最新インサイト「AI/デジタル時代のものづくり」を公開しました。
日本の製造業は、GDP、雇用、輸出、研究開発、特許など、日本経済の基盤を長年支えてきました。しかし、その「稼ぐ力」には大きな変化が生じています。
2000年、日本の製造業の労働生産性はOECD38カ国中1位でした。それが2010年には10位、2015年には17位、2022年には19位まで後退しています。
また、2000年から2024年にかけて国内の総就業者数が約300万人増加する一方、製造業従事者は約145万人、16%減少しました。

日本の製造業の労働生産性順位は19、2000年の1位から2022年には19位へ
本インサイトでは、世界経済フォーラム(WEF)のグローバル・ライトハウス・ネットワーク(GLN)における先進企業の取り組みを分析し、日本企業がAI/デジタル変革を「試す」段階から「成果を出し続ける」段階へ引き上げるための具体策を整理しています。
本稿は、住川武人(シニアパートナー、東京オフィス)、鍵谷美宏(パートナー、東京オフィス)、山家洸(準パートナー、関西オフィス)、山川詠太郎(マネージャー、東京オフィス)が執筆しました。
AI/デジタル時代のものづくり
■世界238拠点、日本は3拠点――「ライトハウス」は何が違うのか
WEFは2018年から、AIやIoT、先進解析、デジタルツインなどを製造現場に展開し、生産性、サプライチェーンのレジリエンス、持続可能性などで卓越した成果を上げた拠点を「ライトハウス」として認定しています。
重要なのは、ライトハウスが単に最新設備やAIツールを導入した「スマート工場」ではないことです。
先進拠点では、個別のデジタル施策にとどまらず、データ、業務プロセス、人材、組織、テクノロジーを一体で変革し、複数のAI・デジタルユースケースを横展開することで、経営成果につなげています。

世界の先進工場では、AI・デジタル変革が経営成果に直結
グローバル・ライトハウス・ネットワークの拠点では、AI/デジタル活用によって平均で、
- 労働生産性:53%向上
- 加工原価:26%削減
- 新製品導入リードタイム:50%短縮
- 材料廃棄:30%削減
- エネルギー・水消費:25%削減
といった成果が確認されています。
つまり、世界の先進企業ではAI・デジタルが「実験」ではなく、すでに生産性、コスト、開発スピードを変える経営レバーとして活用されています。
では、なぜ日本ではライトハウス認定が3拠点にとどまっているのでしょうか。
■「AIを試している」のに、なぜ日本は3拠点なのか
日本企業にAIやデジタル技術が存在しないわけではありません。
むしろ、多くの企業が需要予測、画像認識による品質検査、予知保全、生産計画の最適化、生成AIなど、さまざまなPoCを進めています。
それでも、個々の取り組みが工場全体、事業全体、企業全体の変革につながらないケースがあります。
本インサイトでは、その背景として、
- AI・デジタルツールの導入そのものが目的化している
- 個別工場で成果が出ても、他拠点へ横展開されない
- IT部門主導となり、事業側が変革のオーナーになっていない
- 外部ベンダーへの依存によって、AI・デジタルの能力が社内に蓄積されにくい
- 工場や部門ごとにデータ、KPI、業務プロセスが異なり、成功モデルを複製できない
といった構造的課題を指摘しています。
日本企業が長年強みとしてきた「カイゼン」は、今後も重要です。一方、AI・デジタル時代には、既存プロセスを部分的に効率化するだけでなく、データとAIを前提に業務や意思決定そのものを再設計することが求められます。
■中国はライトハウスの40%超――差を生むのは「技術」だけではない
ライトハウスの地域分布を見ると、中国に所在する拠点はネットワーク全体の40%超を占めています。

中国企業の特徴は、単発のAIツール導入ではなく、システムやデータの標準化、人材育成、組織改革まで含めた変革を長期的に進めている点です。
代表例の一つであるMideaは、2012年以降、システムの統一・標準化、バリューチェーン全体のデジタル化、DXプラットフォームの構築を段階的に進め、現在ではAIを経営・現場の「意思決定」そのものに組み込む段階へと移行しています。
Mideaの順徳工場では、AIやデジタルツインを研究開発から製造まで展開することで、単位生産原価24%低減、リードタイム41%短縮、研究開発リードタイム30%短縮、不良率51%低減といった成果を上げています。
■日本企業はなぜ「PoC止まり」になるのか
日本企業でも、AI、IoT、自動化、BIなどを活用した実証実験(PoC)は数多く実施されています。
しかし本インサイトでは、AI/デジタル変革が全社的な利益改善や競争力向上までつながらない「パイロットの罠」に陥る企業が少なくないと指摘しています。

日本企業では、例えば、
- AI・デジタルツールの導入そのものが目的化し、業務プロセスの再設計まで踏み込めていない
- 個別部門・工場で成果が出ても、縦割り組織によって全社・他拠点へ横展開されない
- AI/DXがCIO・IT部門中心となり、事業部門が変革のオーナーになっていない
- SIerや外部ベンダーへの依存によって、競争力の源泉となるAI・デジタルの知見が社内に蓄積されにくい
- レガシーシステムを部分改修し続けることで、システムが複雑化し、変革のスピードそのものが制約される
が挙げられます。
■AIは「DXを飛び越える近道」ではない
生成AIの急速な普及により、「これまでのDXを飛び越え、AIから変革を始めればよいのではないか」という期待も高まっています。
しかし、本インサイトでは、AIはDXの代替ではなく、その上に成立する「加速装置」だと指摘しています。
業務プロセスの標準化、マスターデータの整備、データ接続、高品質な履歴データ、KPIの統一が行われていなければ、AIもPoCから先へ進みにくくなります。
また、AIが需要予測、生産計画、品質判定、保全判断、さらには設備やロボットの実行まで担うようになれば、企業には新たな問いも生まれます。
どの判断をAIに委ねるのか。
どの判断には人が関与するのか。
そして、最終責任を誰が持つのか。
特にフィジカルAIでは、誤作動が品質不良や操業停止だけでなく、人身事故につながる可能性もあります。AIの導入競争が進むほど、安全性、責任分界、サイバーセキュリティ、ガバナンスの設計が重要になります。
■日本の製造業が「パイロットの罠」を脱する3つの要諦
本インサイトでは、先進企業の共通項をもとに、日本企業がAI/デジタル変革を成果につなげるための3つの要諦を提示しています。
1.事業価値から逆算して、変革対象を絞る
AIのユースケースを無数に立ち上げるのではなく、企業業績や競争力に直結する20〜30程度のコアプロセスに変革活動を集中。財務KPIと業務KPIを結びつけながら、プロセスそのものを再設計します。
2.「全社展開できる形」に組織・人材を再編する
IT部門ではなく事業部門がオーナーシップを持ち、現場、IT、経営企画、データ・AI専門人材による横断チームを構築。競争力の源泉となる領域については、外部活用と並行して計画的な内製化を進めます。
3.スケールと柔軟性を両立するテクノロジー基盤をつくる
レガシーシステムの全面刷新を待つのではなく、API、クラウド、疎結合型アーキテクチャを活用し、短期的な成果を取り込みながら、中長期ではデータ・システム基盤を標準化します。
■「成功事例をつくる」から「横展開できる資産をつくる」へ
AIは設備投資型の自動化と異なり、ソフトウェアとして複製しやすく、本来は複数拠点へ迅速に横展開できる可能性があります。
しかし、工場ごとに設備名称、データ定義、KPI、標準作業、権限、業務フローが異なれば、ある工場で成功したAIモデルを別の工場へコピーしても、同じ成果は再現できません。
日本企業が「PoC止まり」を脱するためには、発想を、
「成功するAIユースケースをつくる」
から
「横展開可能な企業資産をつくる」
へ転換する必要があります。
コードだけでなく、データモデル、運用手順、教育コンテンツ、セキュリティ設定までを再利用可能な形に設計することが、AI時代のスケールの鍵となります。
■主なポイント
- 日本の製造業の労働生産性順位は、2000年のOECD38カ国中1位から2022年には19位まで後退
- 2000〜2024年に、日本の製造業従事者は約145万人、16%減少
- WEFのグローバル・ライトハウス・ネットワークは世界238拠点まで拡大する一方、日本国内は3拠点
- ライトハウス拠点では、平均で労働生産性+53%、加工原価-26%、新製品導入リードタイム-50%などの成果
- 中国に所在する拠点はライトハウス全体の40%超を占める
- 日本企業ではツール導入の目的化、縦割り組織、ITベンダー依存、レガシーシステムなどが重なり、PoCから全社展開へ移行できないケースがある
- AIはDXを飛び越える近道ではなく、標準化された業務・データ基盤の上に成立する「加速装置」
- 成功の鍵は、1.事業価値起点のコアプロセス再設計、2.事業主導の組織・人材、3.スケール可能なテクノロジー基盤
- 今後は「AIの導入件数」ではなく、成果を他工場・他事業へ再現できる仕組みを構築できるかが競争力を左右する
■取材可能な主なテーマ
- 本件について、マッキンゼーの製造業、AI・デジタル、オペレーション領域の専門家が、以下のテーマについて背景解説・個別取材に対応可能です。
- OECD1位から19位へ――日本の製造業の生産性に何が起きたのか
- 世界238のライトハウスのうち日本は3拠点。なぜ差が生まれているのか
- 中国が世界のライトハウスの40%超を占める背景
- AI/DXで労働生産性を50%以上改善する企業は何が違うのか
- なぜ日本企業のAIは「PoC止まり」になりやすいのか
- AIはDXを飛び越えることができるのか
- 生成AI・AIエージェント・フィジカルAIは日本の工場をどう変えるのか
- AIに生産・品質判断を任せる際の「人とAIの責任分界」
- 日本企業はAI・デジタル能力をどこまで内製化すべきか
- 「成功する工場」を一つつくるだけでは不十分な理由
- 工場間でAIを横展開するために必要なデータ・業務の標準化
- 日本の製造業が今後3〜5年で優先すべき投資
マッキンゼー・アンド・カンパニー
マッキンゼー・アンド・カンパニーは、グローバルに展開する経営コンサルティングファームとして、企業および公共機関の重要課題解決を支援しています。産業横断的な知見と高度な分析力により、クライアントの持続的成長と変革の実現に貢献しています。