■秋葉原タウンマネジメント設立の背景
-秋葉原タウンマネジメント(以下アキバTMO)が設立された理由を教えてください。
関「アキバの様相がこの数年で大きく変わりました。非常に大きい開発の結果、34万平米の業務床が整備され就業人口3万人の街が2年でできました。いわば、人口3万人の地方都市が秋葉原にいきなりできたという状況です。このような都市的な変化は、秋葉原の既存の商業地にも影響を与えます。そこで千代田区は『再開発後のまちづくりとその経営について、秋葉原をどういう街にするべきか?』という課題に取り組んできました。日本の人口と税収が減少する中で、いつまでも公共だけがまちづくりを進めるのではなくて、秋葉原の地域の人たちがこの街の資源を使ったまちづくりを進めて、地域の課題を地域が解決していく自立した組織をつくりましょうという結論になりました。これが当社設立の理由になります」
−なるほど。
関「そして、地域の総意を得るため平成14年から開発の協議を進めると同時に、課題の洗い直しと解決策を探ってきました。その中で実行したことが2つあります。1つは、JR秋葉原駅は総武線と山手・京浜東北線が十文字にクロスするので、出口を間違えると線路を越えてちがう出口に出られないという状況がありました。それを受けてJRが駅のコンコースを広げたり連絡通路を作ったりと、4つの出口を行き来ができるように回遊性をもたせてくれました。2つ目は、開発に合わせて2,000台の駐車場が整備されたことです。それまでは荷捌き用車両と自家用車が街にあふれて、交通渋滞を起こす街でした。それを解決するべく駐車場の整備と満空情報をインターネットで配信するシステムを導入し、ハード的な都市整備の中で課題の解決を進めてきました。その一方で、解決できない問題が取り残されています。これはハードの問題ではなくて、ソフトつまりはマネジメント・管理・運営の点が問題になっています。秋葉原の乗降客が年間1億人といわれている中、来街者の皆さんが買い物をすると同時に、食べ歩きをしてゴミを落としていきます。商業地としての優位性はあるのですが、ゴミの問題や軽犯罪が増え、治安が悪くなってきているという課題が残されてきていました。そこで、『ハードを活かしたまちづくりをするための組織が必要』ということになり、平成17年から、地元町会、住民、開発事業者、商店街、電気街などが参加する勉強会をしてきました。去年の4月には、その中の有志が発起人会を立ち上げ、最終的には地域の皆様から約6,500万円の資本を頂いてアキバTMOが設立されました。株主は地権者、地元の町会・電気街・商店街、大企業、千代田区、個人のみなさんで構成されており、これらがそろうことによって地域の総意をもって、当社は地域の会社として位置付けられたと思います」
−経営の原則はどのようになっていますか?
関「官と民とが協力して公益的なまちづくりをすることが目標です。当社は、法律上は営利企業ですが利益を再配分しないで街に再投資していくことを定款に盛り込んだ『非営利法人株式会社』として位置付けられます。あとは地域から愛されることと、組織が組織のために存続するかたちにならないよう常に自己革新に努めるということ。極論を言えば、地域の課題が解決したらこの会社はなくなってもいい、そのぐらいのつもりで頑張っていくという心構えです」
■ボランティアで街を浄化−Akiba Smile
−なるほど。では、現在はどのような事業を手がけていますか?
関「現段階で手がけているのは広告事業と清掃活動事業です。広告事業については千代田区と連携して秋葉原の東西の公共空間で広告を掲載し、その広告料を資源街の安心と安全を作るまちづくり事業を最優先してやっています。この街に来てくださる人にもっと心地よい空間でなければなりません。まずは来てもらって安心な秋葉原にするため、毎週土曜日『Akiba Smile』事業という名称で、ボランティアを募り清掃やパトロールを行っています。地域の皆様にもボランティア活動に参加してもらいたいですね。加えて、情報発信事業にも取り組みたいです。アキバを知らない人はまだまだいますのでタウンメディアとして、ウェブやテレビなどを通じて情報発信を高めていくということを仕掛けていきたいです。あとはAkiba Smileポイントを導入し、地域とコミュニケーションをとっていきたいですね。自主財源にもとづくまちづくりって、実はどの地域も成功していないんですよ。ミッドタウンとか六本木ヒルズのように民だけでやるのは、割と成功する要因がそろっているのですが、地域の住民や企業も入る広いエリアのエリアマエンジメントは取り組み事例があまりありません」
−六本木などは森さんの仕切りですね。(笑)
関「そうです(笑)。例えば、大手デベロッパーが仕切るような誰もが納得する主体がはっきりしているところは割とうまくいくんですね。一方で、秋葉原は誰にも迎合しない、いわば一匹狼的なとんがった企業の方々が集積した街です。その上、地元意識が強い地域でもありますので、新しいことを始めるのは非常に難しい地域です」
−では、その中で御社はどのような動きをされる予定ですか?
関「私どもはつなぎ役としてAkiba Smileのカード事業を展開していこうと思っています。Akiba Smileカード事業の仕組みは、カードは独自発行せずみなさんが持っているPASMOやSuica、Edyなどと、市販のカードを利用できることが大きな特徴です。カードとweb上のシステムを紐付けることで、ポイントがたまる仕組みになっています。このカード事業は、汗や思いなどお金じゃないものにポイントを付けようという試みです。清掃活動に来てもらった際には、参加者にAkiba Smileポイントを付与するのですが、お店独自でも自社ポイントを出せるような仕組みになっています。タッチ部分にカードをかざすとレシートがでるようになっていて、紙に記載された番号と個人情報をウェブサイトに登録すると、Akiba Smileポイントカードに参加したことが認識され、こちらのカード番号とシステムが一致するわけです。5ポイントたまると景品と換えられるようにしていく予定です」
−こちらのハードは、店舗が買わなければならないのですか?
関「まず有効性が見えないと商店街の皆さんも動きづらいと思いますので、10店舗程度については3カ月~半年くらいデモ的に置かせてもらって、効果があればご購入頂く予定です。さらにAkiba Smile事業では協賛金と、ほうきなどの協賛品、そしてポイントの景品でのご提供といった応援手法をお願いしようとしています。最初は、地域の皆さんに清掃事業にご参加頂きたいですね。清掃って結構大変ですが、それに参加してもらうことによって秋葉原の居心地感の良さを作ることがどういうことかを理解してもらえるかと思います」
■秋葉原タウンマネジメントが株式会社なワケ
−株式会社がボランティアを募って地域清掃をするってこと自体がよく理解できないという声も一部ありますが、なぜ株式会社とういう形態を採用したのですか?御社はイギリスなどにある『社会性のある株式会社』と似たような立ち居地ということですか?
関「その通りです。日本には資本金をもった非営利組織を作れる法律がありません。私は昨年の5月まで三鷹市役所で産業政策をやっており、1998年に株式会社まちづくり三鷹という会社を立ち上げました。これは1997年の中心市街地活性化法ができたことを受けての会社です。中心市街地活性化法は、住人が郊外のショッピングセンターに行ってしまうことで起きる街の空洞化を危惧した国が、イギリスで行われているタウンセンターマネージメントという手法を日本向けにし、導入した法律です。組織を作り地域ごとに活力を産むための仕掛けづくりをするのであれば、国が全面的に支援するというものです。この法律は、NPOと商工会や商工会議所、株式会社といった組織を作ることを許可している、株式会社なのに街づくりができるという日本で初めての法律になります。これは国が公益的な仕事をするための株式会社を作っていいという門戸を開いたことになるわけです。ただ、この法律の中の株式会社は中心市街地活性化法に基づく特定会社というくくりがある一方で、株式会社というのはやはり会社法に基づく会社なわけです。法律上では、株式会社で街づくりをしていいんです。でも、会社法から見たら非営利法人というのはおかしいよねと。そこはまだ、うまく整合性がついていないので、どっちがベースかというと基本的には会社法がベースになりますね。ただ、配当するか否かは各組織が決めて構わないということになっています。三鷹の場合は設立から10年が経ちますが毎年黒字なんですよ」
−すごいですね。三鷹はどうして黒字なんですか?
関「それは、国の位置付けを早くに頂くことができ不動産事業に着手できたからです。わたしどもアキバTMOはまだそこに着手できてない。この差が大きいと思います」
−不動産事業というのは、賃借ですか?
関「そうです。空いている場所を安価で借りて、付加価値をつけて高く貸すということです」
−空いている場所というのは、公共の部分ですか?
関「公共の部分と民間ビルの空室を利用しようとしています。法人は、一定の経費を使うため、地域に企業がたくさんあればシャワー効果が大きいんですよ。幸いなことに千代田区はすべての企業が千代田区に来たがっている上に、法人税が一番生まれている非常に幸せな地域だと思います」
−話は変わりますが、御社は広告代理店的な立ち位置になるのでしょうか?
関「ええ。ほぼ近いです。広告代理店のような機能ももっていますね。公共空間に広告を打つことが可能となっていますので、広告代理店的な立ち位置になる可能性は高いと思います。自主財源に基づくまちづくりを目指していますので、収入がないと困りますしね」
−その広告は秋葉原駅西側交通広場などにあるフラッグ式の広告ですか?
関「そうです。この広告掲出でうまれた収益を地域の安心・安全に変えていきます。そしてカード事業でコミュニティーを作っていこうと思っています。これが私たちの最大のブランドだと思っています」
■収益を地域に再投資
−地域への再投資は安心・安全だけですか?
関「たくさんあります。環境整備と駐車場と治安維持と不動産事業。大きな再開発をしても足りない地域資源ってあるんですね。1つはインキュベーション施設。若い方が創業しやすい支援サポート機能。それと観光。今はアジアやフランス、南米からの観光客が多く、秋葉原は日本の中でもベスト5に入る観光地だと思います。アキバはオンリーマンシティーとしてのブランドをもっていますので、それを高めてもっと観光客と買い物客を増やすための仕掛け作りを行っていきます。その一方で、秋葉原はパーツの販売も行う、ものづくりを支える街でもありますので、日本のものづくりを支える商業の街としての姿ももっと鮮明に出していきたいですね。新しい産業を生み出す仕組み。これをトータルにやることが私たちのミッションです」
−売り上げ目標はどれくらいを見込まれていますか?
関「3年で単黒にしたいという思いはあります」
−官に縛られるのを嫌う人々が集う街、秋葉原で御社は完全に官だと思われていますが、批判などはありましたか?
関「もちろんあります。批判はすべてのところから受けるでしょうし、今も受けていると思います。当社が何をやる会社かわからないというご批判を多くいただきます。私たちは、街の課題を自らが発見し、そして地域の方々と一緒になって解決していく組織です。ひとつひとつ具体的な事業をみていただくことで、皆さまから理解してもらえたら嬉しいです。時間がかかると思いますが、着実に事業を遂行していきたいですね」
−歩行者天国の問題。こちらについてはどのようにお考えですか?
関「継続していきたいですね。若い人たちが自分をアピールする舞台として楽しんでいますし、秋葉原は若者が選んでくれた街の1つです。彼らが集まることは、全国の過疎地域から見ればうらやましいほどに価値があるにも関わらず、逆にそこが課題になってしまっているのが現状です。課題を魅力に変えていくためにまずは地域合意を取り付けることが大切ですね。そうすれば、地域ルールの中で解決できると思いますので、わたしたちは合意を取り付けるための潤滑油として動いていきたいと思います」
−今のアキバはサブカルの中心地となっていますが、その辺りとの調和はどうされますか?
関「対立するよりも異なった分野の中で、それぞれが自らの力を伸ばしていくというのが、街の本質です。今は電気とサブカル色が強い街ですが、また新しい文化が秋葉原から生まれるかもしれません。ジャンル毎に区分するのではなく、融合化していく街として期待しています」
■秋葉原への思い
−御社は秋葉原を牽引するリーダー的な役割を目指していますか?
関「私たちはリーダーよりも、土台を作ることが役目だと思っています」
−逆にリーダー的な存在がなく競合していることが、街がにぎわっている要因にもなっていますね。
関「競合して抜きん出ようというエンジンがかかっているからこそ、常に前進しているわけであって、我々がそこで平らな道を作り、秋葉原を好きな方々がその道でスピードを出せるようにしていきたいですね。あとは、人と人をつなぐこと、そして創業の際に役立つ会社でありたいです。ワンストップで相談を受け、それを解決できる人をご紹介したりといったハブ的機能ですね」
−最後に、御社にとってアキバとは?
関「秋葉原は、どんな風に動くか予想がつかない上に、宝を探しても探しても宝箱がありすぎて全部開けきれないような魅力がある街ですね。三鷹育ちの私故、新鮮な目で街を見ることができます。見た目華やかな街ですが、裏路地に隠れている昔ながらの店の魅力は底力を感じます。それを探すのが楽しいですね」
−ありがとうございました。
【あとがき】
開発後に残った課題を解決すべく立ち上がった同社。秋葉原を「心地よい街」にするまでの道のりは平坦ではないかもしれないが、その目標に向かって走り出した秋葉原タウンマネジメント。アキバ経済新聞では今後も、彼らの動きに注目していきたい。