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イージス艦から海自の護衛艦まで-トライアングル「軍港めぐり」レポート

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■ 「YOKOSUKA 軍港めぐり」と横須賀港

軍港めぐり案内図「YOKOSUKA 軍港めぐり」はアメリカ海軍第7艦隊と海上自衛隊の艦船を解説付きで見学できるクルージング。アメリカ海軍とトライアングルが特別に協定を取り交わし、一般の船舶では航行できない航路をめぐるもの。今年9月には定期航路「汐入発YOKOSUKA軍港めぐり」を新たに開始する。

一方の横須賀港は1853年、ペリーの黒船が久里浜に上陸して以来、横須賀製鉄所、海軍工府、軍港として発展を遂げた。戦後は「平和産業港湾都市」として、1974年にはロサンゼルス港、ロングビーチ港と姉妹港提携したことをはじめ諸外国との国際貿易の一役を担っている。

■ アメリカ海軍第7艦隊基地や南極観測船「しらせ」に遭遇

三笠桟橋からホワイトカラーの船に乗船し、しばらくして船が動き出した。天気の良い8月の空の下、海風に吹かれてのクルージングは気持ちがいい。軍港めぐりで出くわした艦船などを、ガイドの解説をもとに時系列で以下に紹介する。

猿島東京湾唯一の自然島「猿島」。海開き後は海水浴場としてにぎわい、7月中旬は1日に1,000人~2,000人以上の客が来島するという。猿島はかつて「十島」と呼ばれていたが、地元の漁師が縁起をかついで「豊島」と呼ぶようになった。それからしばらくして、時は鎌倉時代。日蓮聖人が千葉から鎌倉に船を出した際、東京湾で嵐に遭ってしまったため、念仏を唱えると白い猿が現れ「こっちだ」と指をさす方向に進んでいったところ豊島にたどり着き、難を逃れたため、日蓮聖人の伝説から猿島と呼ばれるようになったのが名前の由来だという。

アメリカ海軍横須賀基地続いて船はアメリカ海軍横須賀基地に。同基地内にはゴルフの練習場や野球場、マンション、教育機関、映画館などの娯楽施設のほか、郵便局や銀行、総合病院など公共施設がそろっており、人口約2万6,000人の1つの大きな街として機能している。基地内で流通している通貨は、「円」ではなく「ドル」。テレビやラジオの放送はアメリカ本国のものだけでなく、横須賀基地から放送される番組も視聴できるという。道路が左側通行ということを除けばアメリカ本国とほとんど変わらない生活が送れるようになっている。

アメリカ海軍横須賀基地写真左側に見える2階建てほどの建物はヘリポートの離発着をコントロールする管制塔。ヘリポートは訓練・防衛のために使われるだけでなく、横須賀基地内にある総合病院に急患を搬送するためにも利用されている。

アメリカ海軍横須賀基地海面から真四角のコンクリートブロックが浮かんでいるのが見える。これは海上自衛隊が所有する磁気測定所。艦船は鉄でできているため、海を走っているうちに磁力を帯びてしまう。船体に磁力が溜まると潜水艦などから発見されやすくなるほか、近くを走っている艦船の磁力に反応して爆発する武器「磁気機雷」に引っかかってしまう。艦船はこれらの問題を回避するため、磁気測定所に船を泊めて船体の磁力を測定し、そのデータをもとに装備しているコイルに反対の電力を流し、帯びてしまった磁力を打ち消すという作業を行っている。この磁気測定所は日本に2カ所しかない珍しいもの。日本全国から横須賀港の磁気測定所を使用するためさまざまな艦船が集まってくるという。

しばらくして船はアメリカ海軍第7艦隊の基地がある横須賀本港に入港した。

空母専用埠頭入港してすぐ、赤と白に塗られた大きなクレーンが見えた。これが「空母専用埠頭」と呼ばれる12号バース。取材時、12号バース付近では原子力空母ジョージワシントン入港に備えて、海底を掘り下げる工事が行われていた。ジョージワシントンは全長333メートルもある非常に大きな原子力空母で、東京タワーとほぼ同じ大きさ。

揚陸指揮艦ブルーリッジ12号バースの右側に船体に国旗がついている船が停泊していた。アメリカ海軍第7艦隊の司令部がのっている揚陸指揮艦ブルーリッジだ。アパラチア山脈のブルー・リッジ山脈に因んで命名された同艦船の全長は194メートル。

ガードボート軍港めぐり中、私たちが乗船している船のすぐ近くをアメリカ海軍のガードボートが走っていた。これは、「これ以上アメリカ海軍基地に近付いてはいけない」という意味で、こちらから危害を加えない限り攻撃されることはないという。

フェーズドアレイレーダー船が進むにつれて、さまざまな艦船を目にするようになった。そこで、ツアーガイドからイージス艦の見分け方が紹介された。窓がたくさん並んでいる部分の真下に八角形の灰色の板が付いている。これは「フェーズドアレイレーダー」と呼ばれるレーダーで、船のレーダーはくるくる回り360度監視をするタイプが多いが、イージス艦ではフェーズドアレイレーダーを船体の4面に配置することにより、360度同時に監視できるようになっている。現在、世界中で作られているイージス艦にはすべてフェーズドアレイレーダーが取り付けられているため、イージス艦の見分け方になるという。

しらせこちらは、オレンジ色の船体が特徴の南極観測船改め砕氷艦「しらせ」(艦番号5002番)。南極の観測を主な任務としている同船は氷を砕きながら進む特性をもっているため、船体の船首側は氷によって傷ついた跡があった。写真のしらせはすでに引退しており、来年、4代目の砕氷艦しらせが就航予定。

補給艦ときわインド洋に補給に出かけていた補給艦ときわ(423番)。海上のガソリンスタンドのようなはたらきをする。補給を行うパイプのようなものが見える。

試験艦あすか試験艦あすか(艦番号6102番)。新しい武器や装備の開発を行う船。小型のフェーズドアレイレーダーが付いている。艦橋構造物トップにはその中核である射撃指揮装置が設置されているほか、艦尾にはヘリコプター甲板も設置されている。

特務艇はしだて船体の上部が白く塗られた特務艇はしだて(艦番号91番)。海外からVIPを招待した際、レセプションやパーティーを行うための船。災害時には医者を乗せたドクターシップとしても活躍する。

水路あずま島と横須賀市の陸地にはさまれた水路。これは、横須賀本港と長浦港をつなぐ海の近道となっている。左右の陸地はもともとはひとつながりの陸地だった。これを明治時代に旧海軍が切り崩し、現在は荒い掘割水路となっている。あずま島はアメリカ海軍第7艦隊が所有する島で燃料が蓄えられている。その燃料の量は40万キロリットル。成田空港で例えると、空港で使用される全航空機および全車両の1カ月分の燃料に相当する。その膨大な量の燃料により、アメリカ海軍第7艦隊は外からの補給なしで作戦行動がとれるといわれている。

■ 海上自衛隊司令部-長浦港

長浦港水路を抜け、海上自衛隊司令部がある長浦港に出た。長浦港の海上自衛隊司令部では日本全国に散らばる海上自衛隊の全艦船および全航空機を指揮しており、海上自衛隊の中枢を担っている。このほか護衛艦隊司令部、潜水艦隊司令部などさまざまな司令部が置かれている。赤と白の大きな鉄塔。これが海上自衛隊司令部の管制塔となっており、司令部の手前にはさまざまな艦船がとまっていた。

ここで唐突に、ガイドから聞いた海上自衛隊艦船の豆知識。海上自衛隊の艦船には艦番号と、名前が付けられている。艦船に付けられている名前はそれぞれ特徴があり、ヘリコプター搭載護衛艦には基本的に旧国名、山岳名などが付けられ、汎用護衛艦には「はるさめ」「きりさめ」「むらさめ」など天気に関連する名前が付けられているという。一方の艦番号は、3ケタのものや4ケタのもの、特殊なものだと2ケタのものもある。艦番号3ケタの艦船は第一線もしくは海外派遣を行う主力艦船。ちなみに、インド洋で給油活動を行っていた補給艦「ときわ」の艦番号は「423」。艦番号が4ケタの船は、主に領海内や港内での後方支援を行う艦船。艦番号2ケタの艦船は特殊な任務を担っているという。

掃海艦海上自衛隊には磁気機雷を撤去するための掃海艦という船が存在する。写真の艦番号301番・302番がそれだ。掃海艦は磁気機雷を撤去するという任務の特性上、磁気を帯びてしまうと大変危険であることから船体は木製でできており、日本が所有する掃海艦は世界で最大級の木造船だという。

標的艦船体に白いラインがひかれている通称「標的艦」。写真は2007年に引退した護衛艦たちかぜ。海上自衛隊では新しい武器が開発された際など標的艦に照準を合わせて攻撃のテストを行う。白いラインを引くことで、武器の命中力や破壊力を測定できる。海上自衛隊では引退した船も有効活用されているという。

掃海母艦うらが掃海母艦うらが(463番)。全長141メートル。掃海艦が作業を行う際に護船となって手助けを行う船。ほかの船と比べても大きな船体をもっているのがわかる。

海洋観測艦ふたみ海洋観測艦ふたみ(5102番)。船首の部分が尖っていることが多い海上自衛隊の艦船だが、ふたみは丸みを帯びている。これは、海洋にケーブルを落とし、海底の潮流の早さなどを測定する際、船首が丸い方がケーブルを落とし込みやすいためだという。

■ ツアーガイド泉谷さんに聞く-軍港めぐりの魅力

1時間弱の軍港めぐりの後、ツアーガイドのトライアングル泉谷さんに軍港めぐりツアー開始の経緯や、魅力、マニアックな参加者、ツアーの今後などについて話を聞いた。(以下、敬称略)

泉谷さん-ニッチなツアーかと思いますが、そもそもなぜこのツアーを開催しようと思われたのでしょうか?

泉谷「元々当社は海難事故が発生した際に出動するレスキュー会社として設立しました。日本で初めて水難救済所として認定され、現在までに150件以上の水難救済に関わっています。その後、平成7年に猿島への船便『猿島航路』を開始し、お客様と接するサービス業にも関わるようになりました。その中で、横須賀の海と船を生かした『横須賀らしいクルーズ』ツアーを模索していたところ、お客様からアメリカ海軍基地がある横須賀本港と、海上自衛隊司令部がある長浦港を船で周遊したいという強い要望を頂き、第1回目の軍港めぐりを開催しました。そこで、『これは一般の方からの需要もあるのではないか』と考え、軍港めぐり航路内での案内なども確立しツアーを本格開始しました。その後、だんだんと企画運航の便数も増え、今年の9月からはいよいよ毎日運航を行う定期航路がオープンします」

-なるほど。「軍港めぐり」ツアーはアメリカ海軍と御社が特別に協定書を取り交わしているとのことですが、いちばん初めに申し入れをした際、アメリカ海軍はどのような反応でしたか?

泉谷「初めて運航を行う際はたくさんの調整が必要でした。アメリカ海軍からの最初の答えはもちろん『NO』でしたので、熱心にお願いを続けるとともに仲介役の方にも手伝って頂き、特別な協定書を結ぶことで航路の実現が可能となりました」

-協定書の中身はどのようなことが書かれているのでしょうか?

泉谷「例えば空母入港などの特殊な日程には運航を行えないなど、その内容は実にさまざまです。特別な協定書は現在も運航ごとに取り交わされており、軍港めぐりの安全運航の一役を担っています」

泉谷さん-泉谷さんが考える「YOKOSUKA軍港めぐり」の魅力は何だと思いますか?

泉谷「やはり一番の魅力は普段見ることができないツアーだということでしょう。そして日本で唯一のクルージングツアーというところです。ツアーでは通常の船舶では観ることができないアメリカ海軍の空母やイージス艦、海上自衛隊の護衛艦や潜水艦などをまじかで見ることができます。また、日によって入港している船が変わるため、毎回ちがった横須賀港の風景を楽しむことができるのも魅力です。まるで動く海の博物館のようですよ(笑)。最近注目を集めているのが軍港めぐりのガイドです。さきほどお話しましたが、軍港の中は日々ちがった風景となります。船内では生のガイドを行っていますので、その時に配備されている艦船、またその時に見える今の横須賀港の風景をご案内します。もちろん横須賀港の施設や歴史等についての案内も行います。時期によって、また日によって変わる横須賀港の今を楽しんでもらえればと思います」

-家族連れから、カップル、海好きまでさまざまなお客様が参加される中、かなりマニアックなお客様もいらっしゃるそうですね。彼らは、どんな方たちなのでしょうか?いわゆる軍事マニアの皆さんですか?

泉谷「おっしゃって頂いた通り、かなりマニアックな方だけでなく、実にさまざまなお客様がいらっしゃいますよ。例えばご質問の中にあった軍事マニアの方々。アメリカ海軍マニアから自衛隊マニアまで、私たちなどとうてい及ばない幅広い知識を持っている方々で、驚きます(笑)。また写真愛好家の方々、横須賀マニアの方々などです。主にみなさん、必死に写真撮影などを行っています。以前、県外から来られたお客様が1日4便のスケジュールのうち計3便に乗船したという記録が残っています。好きな人にとってはそれだけ魅力がある航路なんだと実感することができたことを覚えています」

-御社は今後、「YOKOSUKA軍港めぐり」をどのように展開していくご予定ですか?

泉谷「やはり9月から始まる定期便の運航をはじめ、様々な客層の方に乗船して頂ければと日々努力しています。定期便にすることによって、ご自分のタイミングで計画的に乗船することが可能になるのではと考えています。また賛否両論ある『軍港』ですが、実際に今の横須賀港をより多くの方にご覧頂き、『横須賀』について考えて頂けたらと思います。これからも横須賀の海を中心に、横須賀の街が今以上に発展していくことを心から願っています」

-ありがとうございました。

【あとがき】

小1時間のクルージングで、イージス艦やすでに除籍となっている南極観測船しらせほか普段なかなか目にすることができない艦船をまじかに体感することができる同ツアー。取材中、そばにいた軍艦ファンの男性4人組も「ツアー参加費1,200円は安すぎるくらい」と満足げなようすだった。アキバ経済新聞では横須賀を愛し、日々姿を変える横須賀軍港をレポートするトライアングルの活躍をこれからも見守っていきたい。

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