【バンダイホビーセンター】
~バンダイホビーセンターとその概要~
静岡市街から静岡鉄道で10分弱。車窓を眺めていると突如現れる巨大な建物。そう、それがバンダイホビーセンターだ。ガンダム、アナハイム・エレクトロニクス社のロゴ、地球連邦軍のエンブレムのタペストリーが大々的に掲げられており、ガンダムファンがそれを目にしたら感慨深くなるに違いない。
施設の概要は、1980年7月に生産・販売を開始した初代「1/144ガンダム」以来、約27年で累計約3億8,000万個のガンダムプラモデル(通称=ガンプラ)を生産してきた「静岡ワークス」の後継施設として2006年3月、稼動を開始。「技術の進化・発展」、「地球環境との共生」、「感動創造」の3つをテーマに建設された同施設。生産設備の全面見直しを実施し、ファクトリーオートメーションと新生産システムを導入することで、バンダイグループ全体のものづくりにおける「技術の進化」「生産効率の最大化」「品質の飛躍的な向上」に寄与することを目指すほか、従来の生産工場から広く地域との共生を目指した施設として生まれ変わった。
施設の全高はガンダムと同じ18メートルで、コンセプトは宇宙コロニー。その側面は曲線を描いているが、そこにはソーラーパネルも埋め込まれ、まさしくコロニーの様相を呈している。工場機能だけ考えれば、長方形がベストであるにも関わらず、あえてコンセプトを反映させるためのものだ。また、静岡鉄道の車窓からどのように見えるかも計算されているという。
バンダイホビーセンターは開発から設計、金型、生産までプラモデルを産み出すすべての機能を持っており、アキバ経済新聞編集部では、ガンプラが出来るまでの工程と、施設の内部をレポートする。
【ガンプラができるまで】
~企画開発部門~
市場調査やユーザーからの意見を参考にガンプラの企画を考え、企画したモデルを元に「プロポーションや変形はどうするか?」「関節の可動範囲は?色や質感はどこまで再現するか?」など、より本物に近づけるためさまざまなポイントをブレストし、検討。その後、検討したものを設計部門が3Dキャドシステムで設計図の作成に取り掛かる。
3Dキャドシステムで作成された設計図のデータを元に、次は試作品の作成。隣の部屋に一見「巨大なシュレッダー」にも見える光造形機「エデン」を設置。エデンはホビーセンターに移ってから導入されたもので、同機械を使用することによって以前は10時間かかっていた試作品作りを2時間にまで短縮できるという優れものだ。エデンは黄色い樹脂から試作品を作るため、出来上がった試作品は黄色い。そのため、それを磨き、塗装し、組み立てて実際のプラモデルを再現し、修正箇所をチェックする。
~金型部門~
次は金型部門へ。
金型部門では修正箇所のチェックが済んだ3Dの設計図データを、2Dに直し、パーツを並べて、ランナーの設計図を作成。この設計図データを元に、実際の金型作成へと移る。
まずは、設計図を元に銅マスターと呼ばれるパーツの作成を行う。銅マスターは、金属の塊から銅マスターの元となるものを、マシニングセンタという機械で削って切り出し、細かい部分を手作業で仕上げて完成。これをプラモデルのパーツごとに作り、この銅マスターと、金型の元となるスチールの間に電流を流しながら押し当て、科学反応を利用してスチールを少しずつ削っていくことで、金型がパーツごとに出来上がる。
出来上がった金型コマをCAM部門で作られたランナーのデータに沿って金型の枠の中にはめ込み、最後に金型職人が微妙な調整を加えて金型の精度や品質を高め、金型が完成する。
ホビーセンターでは髪の毛1本より細い40ミクロン単位で加工できるレーザー加工機も導入しており、同機械で金型を作ることで、超ミニパーツの作成も可能。これは、レーザー加工機があれば金型を作ることはできるが、問題は樹脂を流し込んで成形する技術があるかどうかという点。ホビーセンターは昔から細かいプラモデルの樹脂成形を手がけてきたので、小さな金型に樹脂を流しこみバリなどの余分な部分を出さず、きれいなプラモを作ることができるというわけだ。
ちなみに画像のグレーのものが
「ガンダムSEED DESTINY」の主人公シン・アスカ。
米粒より小さいサイズでありながら、鼻と前髪が確認できるという。
ガンダムの命でもある金型部門。4種の色や樹脂などを同時に流し込むのは難易度が高く、「同じタイミングで樹脂を流し入れて、最後までそれぞれの樹脂が行渡らないと不良品になってしまうので、そのそれぞれの樹脂をいかにしてキレイに流し込むかというのが金型を設計している人の経験値と、職人の腕にかかってくるんです」と担当者は言う。一人前の金型職人になるには数十年かかると言われているその道。今年、バンダイでは数年ぶりに高卒者を採用し、金型職人の後継者として育てている。
また、パーツごとの金型作成を行っているのは、金型に問題が起きた際、その問題カ所のコマのみを取り外し修正できるメリットや、エッジが命である金型ゆえ一気堀りだとエッジが出ないためだ。
~生産部門~
次は金型からガンプラを作り出す生産部門へ。
ここには、4色を同時に成形できる多色射出成形機16台が並んでおり、同機械を保有しているのは世界でもバンダイホビーセンターだけだという。もちろんカラーだけでなく、異なった樹脂での成形も可能で、同機は1台で約4,000枚、全部で約7万枚のランナーを1日で製造する。
一連の流れとしては地下のピットから金型を取り出し、多色射出成形機にセット。
多色射出成形機は、ペレットと呼ばれる合成樹脂を高温で溶かし、金型に流し込み成形。成形した樹脂は冷えて固まりプラモデルが完成するといった一連の作業を担っている。
ガンプラの金型は世界に1つずつしかなく、多色成形の金型が緑色の床の下にある地下のピットに眠っている。20年前のガンプラも再生産する際はここから金型を出してきて金型職人が磨き、生産し、それを補完する。そのサイクルを繰り返している。
また、工場内は全自動で完備されているため、ほとんど人がいないことに気付く。中ではシャアザク風と量産型ザク風の搬送ロボットが、ガンプラの材料や成型品を運ぶため、ところ狭しと移動している。
~バンダイホビーセンターから全国各地へ出発~
生産されたガンプラは、説明書とともにパッケージに入れられ、全国各地へと旅立っていく。ここで、せっせと荷物の班出入をしているのもシャアザクと量産型ザク仕様のフォークリフト。もちろんペイントは特注。
【環境に配慮したつくり】
■同施設側面に張り巡らされたソーラーパネル。これは、スペースコロニーをイメージさせる役割だけでなく、年間5万6,000キロワットアワー電力を発電し、省エネにも一役買っている。
■同施設は地下の貯水タンクで雨や地下水を浄化し年間2,000トンの水を再利用。工場内のトイレの排水は全て再処理された水。ちなみにこれは施設内のトイレ。カラーは白・青・赤・黄色の馴染みのカラーで、ガンダムファンなら1度はここで用を足したいと思うのでは。
【地域との共生】
生産施設としてだけでなく、地域者や子どもたちに楽しんでもらいたいとの思いから一般見学コースを用意。商業施設ではないため、常時開放しているわけではなくウェブからの応募で希望者を募り抽選で参加できる仕組みになっている。抽選の倍率は50倍から夏休みシーズンになると100倍を越す応募があり人気の高さをうかがわせる。小学校や中学校の総合学習などの団体見学は別枠での応募も受け付ける。
【バンダイホビーセンターのあんなもの・こんなもの】
■同施設には、アーカイブ展示場も併設。恐竜、サンダーバード、昆虫、車、ヤマトなどの過去のプラモデルが並ぶほか、ガンプラのパッケージイラストが手描きだったころのパッケージ原画や、MGシリーズのボックスアート(箱絵)が展示されており、過去と現在のパッケージ技術の違いを感じることができる。中には手書きの設計図や木型も、「静岡ワークス」の絵も。
■バンダイのアパレル事業部に「ガンダムっぽくしてほしい」と依頼し、出来上がったのがこの制服。背中には「匠」の一文字がプリントされており、思わず袖を通してみたくなるデザインだ。ちなみにセンター長以上が赤色を身に付けることができる。シャアになりたければ偉くなれということか。
■見学に来たこどもたちに「ガンプラは宇宙コロニーで作ってた!」との感動を与えたいという思いから採用されたというドア。全部で3つあり、01と03は廊下にあるのだが、02はなんと男子トイレの中に。そんなところにも遊び心を感じる。
【こぼればなし 静岡にプラモデルメーカーが多いわけ】
静岡県にはバンダイホビーセンターをはじめ田宮模型や青島、ハセガワなどプラモデルメーカーが多く、国内出荷額シェアの85%を占めている。なぜ静岡県にはプラモデルメーカーが多いのか。模型教材組合によると、徳川家康による駿府城開場や家光の久能山東照宮建立など、徳川家が腕の良い職人を静岡に住まわせ、現代では、その血を受け継いだ末裔が家具やひな具などを手がけるようになった。元々プラモの成り立ちは木型で、腕の良い職人さんを求め、プラモデルメーカーが静岡に集まったのではと推測されている。
【あとがき】
見学の途中、同施設担当者は「皆、『いつかは本物のモビルスーツを作りたい』という思いを持っているため、ガンプラを作る際も『これが本物としてあったら』ということを念頭に考えて、自衛隊の戦闘機を見に行き、ブースターの取材をしたりして設計してるんですよ」との小話から、開発者たちのプライドを垣間見たような気がした。施設の統一された世界観や、所々に散りばめられた彼らの遊び心、最新の技術と職人の腕、そして何よりものづくりに対する真直ぐな姿勢。そんなバンダイホビーセンターが本当の「アナハイム・エレクトロニクス」として稼動し始める日も、そう遠くはないのかもしれない。
次回は、バンダイホビー事業部企画開発チームリーダー狩野義弘さんのインタビューをお届けする。
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