■ 「日本発、世界規模」ネットからBUZZは起こった
-トラックバックやブログ、ウェブ業界でも「あのNIKEが」とすごく反響が大きいですが、公開後3カ月経過した現在、実際に視聴回数やダウンロードなどはいかがですか?
蓑輪「YouTubeでは視聴回数が50万件を超えました」
-すごいですね。コメントも全世界から入ってきていますね。
蓑輪「そうですね。YouTubeのほかのムービーにはあまりコメントがつかない中、ポジティブなコメントが多いですね。また、世界中からコメントが入ってきていて、見ている方も非常に楽しいです」
-ダイレクトな反応についてはいかがですか?
蓑輪
「反応は非常に良いと思います。『日本発、世界規模』が元々の狙いだったので、日本以外でもうまくワークしたことがうれしいです。ブラジルで今、コスプレが盛り上がっているらしくブラジルの雑誌社から『取り上げさせてほしい』と連絡が来たりと、評判は僕らが思っていた以上に良かったです」
-なるほど、ネット上以外のリアルな世界でも波及効果が大きかったということですね。
蓑輪「もちろんそうですが、やはりネットが先駆けだったと思います。YouTubeもそうですけど、mixiなどでも『NikeCosplay』や『アキバマン』と検索するとずらーっと出てきたりします。皆さん思い思いのことを書いてくれていて、そこをハブにNIKEiDのサイトやNIKE JAPANのサイトに来て頂いているということが目に見えて分かります。数字的には今までの倍くらいアクセスが増えましたね」
-良いことずくめですね(笑)。
蓑輪「そうですね(笑)。本当に実感はあります」
■ 「BUZZからBIZへ」ネットが着火剤になってくれた
-最初は「BUZZ!を起こそう!」ということでしたが、今ではBUZZどころでなく一種のムーブメントみたいなところまで来ているような感じがしますね。アクセス数は倍になったということですが、ECサイトとしてのビジネス的な部分では、いかがですか?
蓑輪「はい、BUZZがBIZになったって感じですね。結果から言えば非常に上手くいっています。アクセスが増えれば、それだけ売り上げに結びつくような形に作ったつもりでしたので、そこは予定通りという感じです。アキバマンが裏だとすれば、アップルと一緒にやっているNike+が表なんですね。ムービーの最後に出てくるNike+のピンクのシューズがNIKEiDで販売されているんですが、感覚としては『NikeCosplay』がキーになってトラフィックを持ってきてくれて、NIKEiDでNike+を購入してくれているという動きが目立ちます」
-ネットでバイラルなプロモーションを行って、ECで成功したという事例は今まであまり聞きませんでしたが、今回、こういう画期的なプロモーションでNIKEが成功をおさめたことは良い前例になったという話が業界的には出ていますね。
蓑輪「ありがとうございます。Nike+自体がある意味『強い商品』なので、『NikeCosplay』がなかったらどうだったか?というのは正直検証しづらいところはありますけど(笑)。 ただ、今回のアキバマンのコスプレが着火剤になってくれたということはすごく感じます。NIKEiDが、まだあまり知られていないプロジェクトだったので、これを通じて身近に感じてもらえたのではないでしょうか。目的の一つは認知アップだったので大成功だったと思います」
-どんなところが成功要因だったんでしょうか?
蓑輪「認知させるために、面白いムービーを見せるだけだったら、NIKEの過去のCMだって面白いものは沢山ありますよね。それを、さっき『BUZZからBIZ』とお話ししたように、費用対効果に結びつけてこそ成功だという認識を当初から持っていました。ですから、念入りに準備を進めました。ローンチした日も、ちゃんとNike+の販売日にぶつけたりとかしているんです。そういう細かい積み重ねが成功要因という感じですね」
■ 自己表現としての「コスプレ」=「秋葉原」=「NIKEiD」
-どうして「コスプレ」になったのですか(笑)?
蓑輪「NIKEiDはカラーを変えられたり、カスタムができたりと、すごくパーソナルなもので、唯一無二の存在なんです。つまり自分の表現力がシューズに息づいているんです。100人のお客さんがいたら100人全員がNIKEiDでカスタマイズしてもらいたいとは思わないんです。100人のお客さんがいたら、5人か10人の影響力のあるお客さんが作ってくれればそれでいいかなと思っています。最近の若い人と話しをしていて感じるのは、ヒーローがすごく身近にいるということなんです。昔だったらヒーローは決まってマイケルジョーダンや長嶋茂雄さんなんかだったりしたんですけど、今の子供たちはサッカー部のキャプテンとか身近な先輩が好きだったり、憧れだったり自分のヒーローだったりするんですよ。そうした方たちって、やっぱり自己表現能力が高い人たちだったりするんですね。NIKEiDがすごくそこに結びつくので『自己表現』をキーに企画の話をしていました。そこで『コスプレは自己表現で、普段ジミダーのように大人しくしている人たちが、着た瞬間に変身して変わる』って面白いアイディアが出てきて。それって、すごく自己表現だと思うし日本的だと思う。そこから、だんだん話が盛り上がっていって『じゃぁ、コスプレだったら秋葉原でしょ?!』って感じになったんです(笑)」
-それで、撮影地は秋葉原になったのですね。
蓑輪「そうです。それ以外にも理由はあるんですが、今回の狙いが感度の高いインフルエンサーだったんです。なおかつ、対象を日本国内に留めたくなかったんですね。だから海外の人もわかるキャッチーな街でなきゃダメだった。そうなった時に秋葉原はすごく海外でも有名だし、キャッチーで、かつ日本発のサブカルチャーとして認識されている『ジャパニメーション』と結びつく街なんです。レアルやバルサの選手とかも来日するとみんな必ず『秋葉原に行きたい』って言いますからね(笑)。この間も、エアフォースワンのNIKEのデザイナーが、『俺は秋葉原にどうしても行きたい』と言っていましたし…。それくらい海外からも人気がある街なんです。また、CMのタグラインに『PLAY COLORFUL』とありますが、それに結びつく『カラフルな街で色味もよくアジア的な看板もあるところ』といったら『秋葉原しかない』と思ったんです。『京都じゃないだろ』と(笑)」
-なるほど。それで秋葉原だったんですね。秋葉原というと一部ネガティブなイメージもありますが、海外からは「サブカルチャーの象徴」みたいなかたちで評価されていますからね。そこにあのNIKEが注目してくれて、秋葉原発世界ということを表現してくれた。「あのNIKEが認めてくれた」みたいな感じで僕らを含め、秋葉原を好きな人たちにはすごくうれしかったと思います(笑)。うれしいからこそのトラックバックとかもありそうですね。狙っていた通りの効果が出ているんじゃないですか。
蓑輪「はい、そう言って頂けるとありがたいです(笑)。秋葉原シティーアタックじゃないですけど、あのムービーを初めて放映したのは秋葉原のビジョンなんです。やはり、秋葉原の人に話をしてもらいたいし、使わせてもらった街を大事にしたいということでプロモーションを考えましたから。ローカルから発信してほしいという想いは強くありましたね」
■ 「Just a Joke」細部までこだわった演出
-秋葉原の住人やネットの住人って結構、細かいところを指摘して来ると思いますが、ムービーをあえてあのような「面白ムービー」っぽい雰囲気で作る一方、「NikeCosplay」を含めたサイトに関しては「これぞNIKE」という感じに細部までこだわっているということが話題になっています。総体的に今回のプロモーションはすごく細部までこだわったという感じですか?
蓑輪「スタッフにこだわる人間が多いんです(笑)。かなり、こだわりました(笑)。面白いものだけを作って終わってしまうんだったらチェーンメールでもいいじゃないですか。でも、やっぱりムービーにして五感に訴えてNIKEiDを知ってもらって、サイトを訪れてアキバマンをカスタムに楽しんでしてもらい、カートに入れると『ジョークでした』というオチを作り…その後でようやく『NIKEiD、こんなにいっぱいあるので、よかったら買ってください』みたいな、ユーザーへの敷居を下げる流れを作りました。いきなりサイトに飛んで『靴カスタムしてください』っていうのはナシだと思ってたので」
-あのジョークがわかる人に向けてやっているってことですよね(笑)。あそこまで、作りこんで結局ジョークみたいな…。そこもウケた原因のひとつかなと思います。
蓑輪「そうですね(笑)。mixiとかでも『やられたよ』みたいなコメントがあるんですが、それを悪意として書くのではなく、『こんなイタズラまでやってたよ』と良い方に捉えてもらえているっていうのがうれしかったですね。また、NIKEっていう会社がそうしたことを受け入れられるメッセージを送り続けてきた会社なんでしょうね。今回のCMだけじゃなくワールドカップやオリンピックなど過去に面白いCMを作ってきたりしている遊び心の多い会社だと思って頂いているんでしょう。そういう会社なので、みなさんも『あぁ、NIKEだから』みたいな印象があったと思うんですね」
-全体的に凄く凝っていて、作っている側も楽しく作っているんだろうなという印象を受けましたが、その辺りはいかがですか?
蓑輪「学園祭に近いノリで楽しかったですよ(笑)。この仕事、もう1回やってもいいかなって感じです(笑)。でも実は、結構時間と手間がかかっているんです。僕がこうしたことやりたいなあと思ったのが昨年の今ごろで、作り始めてから発表するまでは半年以上かかっているんです。楽しかったですが、結構大変でもあったんですよ(笑)」
-撮影秘話とかもありそうですね
蓑輪「ご想像にお任せします(笑)」
■ 「PLAY COLORFUL」シンクロするNIKEiDと秋葉原
-実際に秋葉原を撮影の舞台で使ってみて、印象はいかがでしたか?秋葉原という街や人々に何か感じたことなどありますか?
蓑輪「NIKEiDの商品は、1つのモデルで色のバリエーションが何億通りとあるようなカラフルなものなんですね。その色っていうところと、秋葉原のネオンというのが僕らの中ですごくシンクロしています。『色』という部分のシンクロと、そこに秋葉原が持っている独特の毒や『オタク文化』にNIKEiDが足を突っ込み、そこを本気でいじることで、何かその毒がいい意味で抜けるんじゃないかという計算があったんです。以前はメードやオタクのイメージが強かったんですが今、僕が持っているアキバの印象というのは、街全体の色がすごくカラフルだということです。ただ、まだ、秋葉原にいる人には『色』というものがついていない気がしますね。やっぱり、フランスやイタリアなどでは全身黒とかでなくポイントに緑や赤を使っていたりして、すごくかっこいいじゃないですか。秋葉原だけじゃないのですが、日本人はどうしてもスーツに同じ淡色を合わせたり。今回の『PLAY COLORFUL』というメッセージをそういう意味で、少なくとも足元はNIKEiDで主張してくれたらうれしいなと思っています。アキバなら『俺、ジミダーじゃないんだ』と、ちょっとしたアクセントになったりして。そういう風に広がっていってくれて、みんな外見的にも格好良くなって、個性も主張していって、ステレオタイプじゃない日本人の印象が出てくると『このCM、秋葉原で撮って良かったな』と思えるんじゃないですかね」
■ まだまだ止まらない。これからのNIKEiD戦略
-「続編」の期待もありますが、いかがでしょうか?
蓑輪「残念ながら続編はまだ未定です。ブランドとしてはプレミアムな感じで展開していきたいので…(笑)。やはり、これはメーンストリームじゃないと思ってもいます。毎回ヒーローモノやアニメとかだと、それはそれでちょっと違うかなと…。たまにこういう『指し色』的な感じで入ってくるのがカッコイイかなと思っています。続編はどちらかというと、ユーザーさんの中からファンになってくれた人が勝手に作ってほしいな・・・なんて。それこそ、ブラジルのリオのカーニバル版みたいなものをブラジル人が勝手に作ってくれたりとか、このバイラルCMをモチーフに渋谷とか他の街バージョンを作ってくれたら嬉しいですね。そういうのがYouTubeに上がってきたらいいな(笑)」
-ジミダーさんのその後について気になっている人も多いですが・・・。ブログを書かれているというお話も聞きましたが・・・。
蓑輪「彼は元気ですよ(笑)。そうなんですよ、実は彼ブログを始めているんです」
-では、ジミダーさんのブログは発見する人が発見して「あっ、あったよ」みたいな盛り上がりも期待しているということですか?
蓑輪「まあ、そうですね。ブログはどちらかというと後夜祭ですね(笑)」
-NIKEさん以降、YouTubeでのバイラルプロモーションが増えていますが、今後もYouTubeを含め、ネットを使用してプロモーションを展開していくお考えはありますか?
蓑輪「それは大いに考えられますね。マスマーケティングオンリーのプロモーションから変わりつつありますし。まあ、従来はテレビでやって、それを他のメディアでどう補完していくかという手法でプロモーションを行っていました。ウェブは補完メディアでしかなかったですね。でも、それが今はウェブがど真ん中にいます。ターゲットもセグメントされたweb2.0としての新しいインテグレーションができたなと思ってもいます。また、もし今回、YouTubeにムービーを置かなくて、Nike.jpの中にだけムービーを置いたとしたら、トラフィックを持ってくるまでにまたプロモーションをかけたりしなければなりませんよね。でも、YouTubeだったら、みんなが『面白いものはないか』と積極的に探している感じじゃないですか。自発的に個人がメディアになっている。それもネットに明るい身近なヒーローたちが…。これは今後も含め、色々な意味で将来性を感じますね」
-最後に、今後のNIKEiDのプロモーションはどんな方向性でお考えですか・・・?
蓑輪「NIKEiDをブランデットコマースにしていきたいところが、すごくあります。今回のNikeCosplayの手法を採用するかは秘密ですが、今回知ってもらったNIKEiDを引き続きひいきしてもらえるような正統派なプロモーションと、正統派でないもの両方を仕掛けていきたいですね。世の中、苦しくて嫌なことが多いけど、遊びながら楽しく仕事したいじゃないですか。ちょっと遊びのエッセンスが入ることで、そこからクリエイティブのアイデアが生まれてきたりしますよね。真面目な仕事の中にオフみたいな仕事があると、お互いうまく連動すると思うし…。そうした要素を普段の生活やファッションでも遊びでも、仕事でも何でもいいので持ちながら生きていく。そんな生き方をNIKEiDを通じて伝えていけたらいいなと思っています」
秋葉原とコスプレを「自己表現とカラフルな街」と評し、映像に留まらないメディアインテグレートな仕掛けのプロモーションをビジネスとしても成功させた『NikeCosplay』チーム。そんなNIKEの次の展開に今後も期待したい。
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