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「クール・ジャパン」世界が注目するアキバ、その魅力とは?

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■クールな文化を支え、マニアに応える街が秋葉原

柳原「今、世界が日本のポップカルチャーに注目をし始めています。その中心として秋葉原が重要な街になっているとのことですが、なぜアキバなのでしょうか?」

杉山「日本の文化、世界的に注目されているクールな文化というのは、実はマニアが支えている文化と言えると思います。ごく一部の人たちが好きになったことを深く掘り進んでいくことでクールな文化が形成され始めるわけです。そんなマニアな人たちに、秋葉原という街が応えているからということなのでしょうね。 普通、コンシューマの製品というのは、何事も一般的になっていくと、作り手もどこかで妥協するわけです。売れ筋商品を主に販売していってマニアックな部品だとかソフトなんかは店には置かなくなってきますよね。だけど、秋葉原という街は、そんなマニアに必ず応えてくれる街なのです。出来合いの家電製品を売るというだけではなく、例え一つでも世界最高の部品を売ってくれる。そこがアキバだったわけです。かつてオーディオブームというものがありましたけど、その頃は、非常に質の良いプロしか使わないような部品も全国で売られていたわけです。ただ、その後オーディオブームが下火になってくると、どこの店でもプロ志向やマニア向けの部品とかは扱わなくなってきたんですね。ただ、秋葉原だけは違った。ブームが去って、お店とかはもちろん淘汰されていくんだけど、ちゃんとマニア向けの老舗は残っていて、少数の熱狂的な人たちに今も応えているのです。だから、人は秋葉原に集ってくるのです。秋葉原は裏切らない。オーディオブームのあと、マイコンブーム、PCブームが起こっていくんだけど、全く同じことが秋葉原では起こっている。マイコンブームなんか、とっくに去っても一部の店が工学部の学生や大学教授とかを中心としたマイコンマニアに受けるモノを売り続けてくれるんです。だから、マニアな人たちは秋葉原へ集うし支持もする。いまだに昔の真空管とかを売ってくれる店もあるわけですから。そんなマニアたちに秋葉原が支持され続けているということがクールな文化を発信する街となった基盤にあるように思います」

■クールなオタクカルチャーも秋葉原が育てた

柳原「なるほど。アキバという街がマニアを裏切らなかったことが文化を発信する街という基盤を作ったわけですね。そういう支持が、次に来るゲームソフトやアニメというブームにも関係してくるわけですよね」

杉山「そうですね。PCブームのあとも、ゲームソフトのブームというか時代がやってきます。その時も、やはり秋葉原はマニアを裏切らなかった。ファミコンブームのあと1994年末にプレステやセガサターンが出ましたけど、そのソフトのなかにはマニア受けするソフトっていうのがあったんです。それらはやはり全国的にはあまり量販店なんかでは売られなかったんですよ。ただ、秋葉原では取り扱っていたんですね。そんなソフトの中に今のいわゆる『萌え』要素が入ったものがあって、そこから萌え文化と秋葉原が遭遇するわけです。それからお祭りのように行なわれているコミケや、いわゆるコスプレ的な文化が派生・融合していった。そういうマンガやゲーム、アニメという分野も秋葉原は取り込んでいったんだと思います。それらがオタクカルチャーと言われる文化を秋葉原に形成していったんですね」

柳原「秋葉原という街に根付く『マニア志向』が全てを繋いでいるんですね」

杉山「そう言えると思います。クールなコアなオタク=優秀なSEみたいな話しもよく聞いたりしますからね。オーディオブームからPCブームを経て最近の萌え文化まで秋葉原という街がマニア=オタクに応えてきたからこその成果だと思います。まあ、オタクな人たちはいろんなオタクが重なっている人も多いんじゃないですかね。コミュニティーを重複している人も多いと思います。先ほどの優秀なSEがアニメオタクだったり、理工系の車のデザイナーがガンダムオタクだったりフィギアオタクだったりする話は本当によく聞きますから。そういう人たちが秋葉原で和んだり、情報交換するような場所として流行りだしたのが初期のメード喫茶の状態だったと思います。最近は状況も多々変わっているようですが、メードさんの女の子自体もアニメ好きだったり、コスプレーヤーだったりした子が多かったと聞きますし…。そうした店員も客もオタクな共通理解と共通ルールで和めたり楽しめたりするというそういう文化が出来てきたのが、初期のメード喫茶が成立していった本質なんじゃないでしょうか」

■時代は変わっても「秋葉原」の本質は変わらない

柳原「秋葉原の街が変わってきていると昨今耳にしますがいかがですか?」

杉山「確かに外観は都市開発などによって変わってきているのかもしれませんが、秋葉原にある本質は全然変わっていないと思います。昔からの流れを脈々と受け継いでいて秋葉原らしさというものは全然変わっていないと思います。『らしさ』は続いているって感じがしますね」

柳原「なるほど。先生の著書にも書いてありましたが『はまる』とか『マニア』という言葉に常に応えてきた街としての秋葉原は変わっていないんですね。秋葉原は趣味の街としてユーザーの期待を裏切らないということですね」

杉山「何事も流行すると全国に店はできるんですが、ブームが廃れてもアキバには残る。そこが支持されているんでしょうね。あと、『趣味』というと本当のプロより落ちる感じがしますよね。でも、秋葉原に代表される『趣味』というのはプロを超える世界だったりするのです。『世界最先端技術で創造される趣味』みたいな感じでしょうか(笑)。昔の話ですが、秋葉原でおもちゃとかに入っているベアリングというものが売っていたんですが、旧ソビエトなんかは秋葉原にそれを買いに来ていたりしたんですよ(笑)。最近も家庭用ゲーム機が、ある国へは輸出禁止だったり、語弊があるかもしれませんが、プロ用の盗聴機材なんかもアキバではごろごろ売っているわけですよ。プロ中のプロが持っているようなものが、子どもでも買える状態で売っている、そんなちょっと行き過ぎた感じも秋葉原という街の持っているパワーなんじゃないでしょうか」

柳原「いき過ぎた感もありますよね(笑)。ただ、極めるってそういうことですもんね(笑)。結局、職人っぽいそういう極めるという気質が日本人にはあるんですかね。でも、最近は海外でもそういう人たちが増えてきて、アキバにも海外からの来訪者も増えていますよね」

杉山「そうですね。でも、秋葉原には昔から外国人は多かったんですけどね。電気屋が2000店とか並んだ街なんて世界でも珍しいですから。ただ、確かに、観光客としての外国人の人は多くなったかもしれませんね。あとは、『極める』っていう日本人っぽい気質がトヨタの『カイゼン』とかアニメ文化などで世界にオタク文化みたいな感じで広まり、その象徴である秋葉原に触れにくる外国人は多くなっていると思いますね。海外から注目される街なんですよ。そんな意味からも、アキバ=オタク=気持ち悪いみたいな風潮はすごくもったいないような気がしています。秋葉原に来ればたいていの日本人の心に響くものがあると思いますから」

柳原「そうですよね。秋葉原はテーマパークみたいなもんですもんね」

杉山「テーマパークですよ。僕が最近思うのは、団塊の世代が来年くらいから引退が始まりますけど、『もう一度秋葉原へおいでよ』って言いたいですね。自分の青春時代とかにハマったものが必ずありますから。楽しいですよ。絶対に」

柳原「それおもしろいですね」

杉山「でしょ。高級オーディオの世界ではそんな流れが少しずつ始まっていてブーム再来になりそうなんですよ」

柳原「やっぱりアキバですか?」

杉山「そうですね。アキバにしかないですよ。そういうメーカーとかが品を卸すのは秋葉原ですね」

柳原「高級オーディオっていくらくらいなんですか?」

杉山「世界のJBLとかのブランドって実は日本人ファンが支えてたりするんですよ。2本で600万円のスピーカーとかね(笑)」

柳原「日本人のオーディオマニア度はすごいですね(笑)」

■ クールな文化は脈々と続いていく

柳原「最近は、総理大臣や外務大臣なんかも世界へのコンテンツ発信の場=アキバみたいな話がありますが、アニメなんかでいうと中央線沿いの制作現場なんかもあると思いますがなんでアキバが象徴みたいになっているのでしょうか?」

杉山「アニメなんかで言うと、作っている場所は杉並とかなんでしょうけど、制作現場は一般の人は見ることができませんよね。ジブリなんかは自社で美術館とか作って頑張っていますが、中小の制作プロダクションはなかなかそういうわけにはいきません。だから、ショーケースみたいにコンテンツを見て触れる場所として秋葉原が重要になってきているんだと思います。そういう意味では、秋葉原をコンテンツ発信の街と言っても過言じゃないと思いますよ」

柳原「アニメ、メードと色々来ていますが、次のアキバには何が来ますかね?」

杉山「やっぱりロボットじゃないですか。国や研究機関を中心に秋葉原をロボットの中心にしようとも言っていますし、日本がやるべきこととしてもロボットだと思います。また、アニメとロボットって文化的にかなり近いですよね。日本で言えばガンダム、アメリカなんかだとマクロスが王者ですが。そういう意味も含めて秋葉原とは相性は良いとも思うし、美少女マンガから現実に動いているロボットまで、秋葉原だと何となく繋がっていますよね、なんとなく(笑)。それが秋葉原の凄いとこだと思うんですよ」

柳原「確かに何となく繋がっていますよね。ほかの街では繋がっていないですからね」

杉山「先日、ロボット競技会があったんですけど、そこで女の子が操縦しているロボットが出場していたんですね。その女の子の格好がいわゆるコスプレなんですよ。それが全然おかしくないんです。マッチしているというか、『これこそ正しい姿』という感じになっているんですね。これぞアキバって感じがしましたよ。カッコイイんですよ」

柳原「カッコイイという感じが、オタクという言葉が海外から逆輸入してきて、オタク=クールって感じになってきていますよね。最近では、有名なデザイナーさんなんかも『イベントはアキバでやりたい』とか普通に言ってきたりしますし…。アキバ=カッコイイ=クールって価値が出てきていますよね。著書にもありますが、国としてのかっこよさみたいなものがアキバを中心に出てきてますよね」

杉山「そうですね。オタク=クール=秋葉原みたいな感じがありますよね。世界では評価されているんですから、日本でももっとオタクや秋葉原をクールだと捉えていってほしいですよね」

■ 『クール・ジャパン』の象徴としての秋葉原のこれから

柳原「話は変わりますけど、最近、秋葉原に食べ物屋さんとか増えているんですよ。おでん缶とかも有名ですけど、ケバブ屋さんとかも流行っているんです」

杉山「すぐ食べられるからですよね。おいしいし。ファストフードは街に合っているんじゃないですかね。買い物で色んなお店を回ったり、イベントで並んだりするときに重宝しますから。これからもそういうお店は増えていくと思いますよ。観光客の人も増えてきていますしね」

柳原「最近、アキバ発とかの音楽なんかも注目されていますがそちらはどう思いますか。ストリートミュージシャンやストリートアイドルとかも誕生してきたりしていますが…」

杉山「やっぱり、音楽と美少女とかって切り離せないところだからAKB48を仕掛けた秋元さんなんかは『よく見てるなぁ』って思いますよね。ストリートアイドルなんかも面白いですよね。オタクな感じで応援をしているのは特に良いですよ。アイドルの応援としても正統派ですから(笑)。80年代のアイドルの応援を引き継いでいる感じですよね。そんな、音楽っていう切り口は秋葉原の今までの流れの延長線上にあるから、今後注目されると思いますよ。オーディオやPC、アニメ、萌えなんかを継承して次のブームが来るでしょうから音楽は正しい流れだと思います。また、量販店や電気屋さんが数多くある以上、AV機器や主力商品であるテレビとかに付属してくる、ソフトとしてのDVDや次世代DVDなどの音楽が注目されてくるのは必然だと思います。ソフトって意味を考えれば小さな映画館なんかが秋葉原にできると、もっとソフトの部分も盛り上がると思いますけどね。アイドルが歌って、オタクが応援して写真を撮って映像にしてネットへ…みたいに秋葉原という街は相乗効果が本当に出ていますよね。マニアを満足させるレベルで。まあ、そんな感じで、何が盛り上がるにしても当面、秋葉原という街はネタにはつきない街ですよ。絶対に」

オタク=クールの象徴として秋葉原があるという杉山さんは、日本文化のファンを世界に作る発信基地としての秋葉原に注目し続けている。歴史も宗教も倫理もイデオロギーも自由にリミックスして発信し続ける新しい日本文化の象徴『秋葉原』の動向に期待せずにはいられない。

杉山 知之氏プロフィール

デジハリ学校長/デジタルハリウッド大学大学院 学長/工学博士
【著書】
「デジタル書斎の知的活用術」(岩波アクティブ新書)
「ポストIT は日本が勝つ!」(アスキー出版)
「デジタル・ストリーム・未来のリ・デザイニング」(NTT 出版)
「クール・ジャパン 世界が買いたがる日本」(祥伝社)
1954 年東京都生まれ。1979 年、日本大学大学院理工学研究科修了後、日本大学理工学部助手。87 年より、MIT メディア・ラボ客員研究員として3 年間活動。90 年、国際メディア研究財団・主任研究員、93 年、日本大学短期大学部専任講師を経て、94 年10 月、デジタルハリウッド設立。以来、クリエイターの育成、インターネットビジネスの発展に力を注いでいる。デジハリ創立10 周年となる2004 年、開校当初からの念願であった、「デジタルハリウッド大学院(専門職)」を開学、日本初の株式会社による大学院となる。同年11 月、「デジタルハリウッド大学」が文部科学省より認可。学長に就任。2005 年4 月、東京・秋葉原に開学。

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