■ガンプラにとって無視できない秋葉原の影響力
-さて、秋葉原に関して聞きたいのですが、マーケティングって意味でも、商品の販促地といった意味でも、秋葉原を意識したりするものですか?
狩野「ものすごく大きいでしょうね。秋葉原のヨドバシさんなんかを例にあげると、ヨドバシさんは大量に商品(ガンプラ)を仕入れて、広い売り場スペースを確保して販売する。そのヨドバシさんで売れたかどうかが、ある意味、指標になっちゃうんですよ。何故それが指標になるかというと、秋葉原はアクセスがすごく良い上に、夜10時っていう夜中に限りなく近い時間でもビジネスマンが仕事帰りに商品を見れたり、休日に遊びに行くのなんかもヨドバシさんみたいに1つに集約されてて便利とか色んな理由でたくさんの人が足を運んで、売り場を見るわけですよね。で、売り場の販売状況を見た彼らの共通理解のような『売れてたね?』『うん。売れてたね』っていうのがクチコミやネットで広がって、それが売れていたって事実になっちゃうんですよ。もしかしたら、他地域では壊滅的に売れてなくて、秋葉原だけで売れてたとしても・・・。よく考えると非常に狭い話なんですけど、影響力は絶対無視できない」
-そうですよね。ヨドバシさんのエレベーター上がって6階のホビーフロアでは、もの凄い広さの売り場スペースが確保されてますもんね。
狩野「あの一角は、ある意味ガンプラのために空けてもらってるスペースなので、あそこで売れてるか売れてないかが見えちゃうんですよね。それは、大きいですね」
-それで、秋葉原の人たちが買われて、中にはジオラマと組み合わせてみたりアレンジしたりしている人もいますが、それは聖地的にみてどうですか?
狩野「どうでしょうね~。最近は、そういう人、減ってきてるんじゃないかな。もっと言うと、本当にプラモデルを作る技術が高いのかどうかもわからないですしね。秋葉原は見事に消費をしてくれるんですが、作るのがうまい人が集まってるかどうかはわかりませんからね(笑)」
-最近、秋葉原は観光地化していて、お土産変わりにガンプラを買って帰るなんていう海外の方もいらっしゃったりしますが、日本人も含めて確かにジオラマとか作られてる方、少なくなったのかもしれませんね。
狩野「う~ん。実際、塗装すらしてないんじゃないかな。開封せず箱だけ積んで、コレクションとして持ってるみたいな。エアギターみたいにエアモデラーが沢山いるっていう状態だと思います(笑)それはある意味残念でもありますね」
-最近、女性のモデラーも増えているそうですが、秋葉原の街も、女性が増えてきてるんですよ。
狩野「秋葉原の今の経済って、考えると相当に変ですよね(笑)。なんていうか、入場料は無料だけど相当にエンターテインメントな街になってきてますよね。ある意味ディズニーランドみたいな(笑)」
-そうですね。BHCさんの徹底ぶりも、ディズニーランドみたいですけどね(笑)
狩野「徹底しようと思って徹底してるんじゃなくて、いつの間にか徹底しちゃいましたって感じですけどね(笑)。秋葉原なんかは、ヨドバシさんができてからは、買い物って感覚からいうと表通りと裏通りがひっくり返りましたもんね。事実上、表通りが混沌としてるじゃないですか」
-確かに、秋葉原のそんなところは、ある意味ディズニーランドに近いかもしれませんね。
狩野「10年くらい前の秋葉原は夜8時くらいには中央通りのほとんどのお店が閉まってましたけど、今なんかは営業してるお店や居酒屋が結構あったりで、様変わりしましたよね~。秋葉原って、物欲っていうか『ちょっと面白いものがあったら買いたいな』って人がすごく沢山いますよね。確かにそういう意味では、経済がダイナミックに動いてる街ではあるでしょうね」
-そうですね。東京の中でも大きな消費地であったり、国なんかも文化の発祥地的位置づけで「秋葉原発」「クールジャパン」みたいなことをやってるので、そういった意味で、影響力っていうのが少なからず出ててることは感じますね。
狩野「そういった公の政策の一環とかムーブメントみたいなことが、ライト層に認識されて一般化してるのと同時に、ガンプラも随分一般化してきてたと思いますね。『ガンプラ』って言って知ってる人も多くなってきてますしね」
■唯一無二の存在であるが故の宿命
-秋葉原には海外からの観光客も増えているんですが、BHCさんとしては世界を意識されたりしてるんですか?
狩野「ないわけじゃないですよ。世界戦略的な話で言うと、まだまだこなれていないっていうのが正直なところなんです。元々ガンプラが、国内で生産されている理由があるんですよ。プラモデルっていうのは成形した物が箱に入っているという商品構成なので、玩具の様な『組み立て』といった、人手による生産工程が少ないのです。プラモデル製造を国内でやっている分には輸入する経費はかからないし、袋詰めや箱詰め以外はほとんど機械で作れちゃうので、人件費がかかることがあまりなく大きく商品単価に跳ね返らないんですよ。ところが、合体ロボとかは組み立てたり、色が塗ってなければならないので、海外のリソースを使って作った方がコストも販売価格も抑えられるという結論になってるわけで。で、バンダイホビー事業部は海外での生産はやってはいるんですが、『日本で作るシステムをいかにして継続するか』というところに没頭してきので、まだ他社を圧倒的に凌駕する海外での生産力を持っていないんですよ。そこは、まだまだこれから研究するべき分野かなと思っています。アジア圏は気候も距離も比較的近かったり、台湾なんかは親日だったりすることもあったり、ファンの熱も高かったりするんで、そこではビジネスチャンスがあるのかなと思いますしね。逆に、世界戦略って意味ではBHCが足かせになってしまう可能性もあるわけです。例えば、BHCで作っているが故に、海外に出したら高くなってしまう点であったり、BHCが保有する技術であったり・・・。具体的に言うと、この技術を海外に持っていったら持っていったで、真似されてしまい、それを訴えたとしても法整備上の問題で勝つまでに10年経ってしまい、勝った頃には一般化してました・・・では困っちゃうわけです。そういった点で、海外に持ち込むのに色んな国の状況も含めてなかなか決め切れてないんですよね。BHC独自の手法とガンプラを作るノウハウが流出してしまったら、同等の力をもたれてしまうことも考えられるので、ずっとここで作ってるっていうのもあります。とはいえ、当然の様に世界に向けた展開は必要になってきますし、そういうチャレンジは続けていきます」
-逆に、ここで作られてるっていうので外国人がわざわざ日本に買いにくるっていうのもあるかと思うんですよ。BHC自体で販売はしないんですか?
狩野「難しいですよね。ブランドもののバッグみたいに『フランスで買わなきゃだめ』とかそういった感覚に近い感じで『BHCに来て買うのがいいんだ』とか『BHCの通販で買うのが最高』みたいになってくれれば一番いいんですけど、そうはいかないじゃないですか(苦笑)」
-なるほど。
狩野「だから逆に海外の人からは『秋葉原は安いし種類もたくさんあるから、天国だ』なんて意見を聞いたりしますね。それに値引きも凄いですしね。発売日から3割引きで販売してるのを見ると『すごいな~』って思っちゃいますね(笑)。その反面、それが当たり前になってる部分もあるので、怖いなとも思いますよ。流通の破壊も、多分秋葉原から起こるんだろうと思います。秋葉原は『創造と破壊の街』ですね(笑)」
-確かに。電化製品等は価格破壊が起こっていて秋葉原でも淘汰は始まっていますからね。
狩野「僕らBHCはこれだけのものを作ってますが、『どのくらいテクノロジーがあるのか?』って言われると、例えば、今現在で言えば、電子部品の分野でどうですかと聞かれればそれ程高いレベルのテクノロジーは持っていません。だけど、樹脂成形で戦える局面では、それでいいんです。例えばPCとか作って、PCメーカーと戦おうとか全く思ってなく、プラモデルで勝負をかけてるので、出す札が全くバッティングしないんですよね。しかも、相手がうちと同じクオリティーのプラモデル商品を出そうとしても、絶対にできないっていう自信があるから、そこでは勝っちゃうんですよね。よく言われるんですが、去年1年で樹脂成形をやられている色んな企業が見学に来て、『ここまで見せちゃうんですか』って驚かれるんですよ。トヨタさんとかだとこういった開発フロアは真似られると困るので絶対に見学させてもらえないらしいんですね。でも、BHCが色んなところをお見せするのは、お見せしたところで、他社では真似できませんし、逆に『じゃあ、ガンプラ作りますか?』ってなったらそもそも、作らないと思うんですよね。むしろ我々としては、情報解禁のタイミングを重視してるので、2ちゃんねるに『次、●●が出る』っていうのを書かれる方が怖いですね(笑)」
-突出してますもんね。そこがやっぱり聖地たる由縁なんでしょうね。
狩野「ここでしかやってないですからね(笑)。あと、アナログで作ってるのが正解なんでしょうね。これって、コピーがしにくいんですよ。デジタルだと機械を持っていればコピーするなんて造作もないし、1回の投資に10万円かけたとしても、いつか回収できますよね。でも、このガンプラを複製するとなると、例えば3,000円でガンプラを買って、それを元に金型を作ってコピー品を作ることはできますけど、全く同じものは作れないし、投資したら絶対に元を回収できないし。うちですら元をとるのがそれなりに大変なわけですから(笑)。そういった部分で誰にもコピーされないし、かつネットでも表現しずらいですしね」
-そうですよね。最新技術で作ってるんだけれども、完成したものはすごくアナログみたいな。
狩野「そうなんです。超アナログ。アナログの塊なんですよ。導入している技術は最新でも、制作工程の最後はやっぱり職人の腕にかかっているものなので。だから、制服の背中に『匠』って入ってるんです。そもそも、僕らも樹脂を量り売りしてるわけでもないし、『ランナーの枚数○枚だから○円』って、それだけで値段を決めてるわけじゃないんですよ。手間がかかっていれば、当然高価になりますし、楽しさを存分に盛り込めたら高くなる。逆につまらなかったら、『高く売れないよね』って考えますし」
■BHCのこれから
-やっぱり、魂が入ってるかどうかってことですね。いやぁ、でも絶対どの企業も真似できないですよね(笑)。このまま突っ走っていく感じですか?
狩野「ははは、そういうわけでもないかもしれません(笑)。ただ、こんなものにこんなにお金かける馬鹿みたいなこと普通はしないですよ(笑)。我々も、今日突然、ガンプラをやろうとしたんじゃなくて、ステップを1段1段上がりながらここまできているので、他メーカーがここまで追いつくのに20年とかかかるんじゃないですかね。ただ、それなりのロボットをつくる他メーカーもありますので、当然、先行している我々としては絶対追いつけないようなものをどうやって作り出すかっていうのは、すごく考えてます。新しいことをやって若い層を取り入れないと硬直化するだけですし。秋葉原がこういう状況になるとは、誰も思ってなかったのと同じで、突っ走り続ければ、異常なまでにユーザー層を拡大できるのであれば、このまま突っ走れば良いんでしょうけど、ただ突っ走れば良いってわけでもないと思うんですよね。色んな思索をして、全然ちがうことをやっていかないといけませんしね。10年後もガンプラやってるとは思うんですけど、どうなっているかは誰も断言できないですね。もっと凄いことをやってるかもしれないし、以外となくなっているかもしれない・・・。そういうことにどうやって手を打っていくか。ガンダムって、ガンダムの様式美に縛られてるし、物作りもガンダムにしかならないから、ガンダムでないものを作るとなったときに、ガンダムでない方法論をいくつ持ち込めるかっていうのが実は、すごく問われてるんだろうなと…。それは、プラモデルだから遠くから見れば『どっちもプラモデルじゃん』って感じかもしれないんですけど、ちょっとした要素が入ってくることで、随分状況が変わると思うんです。例えばガンダムとケロロを買っている人の層がちがっていたらもっと助かるな・・・みたいな。そういう支えてくれる人の数が増えれば増えるほど、僕らがやれることは増えるし、併せて社会貢献度も高いわけだから企業としても成長する、売上げも伸ばせるっていう広がりをもたせられますからね。そういう夢をいくつ考えられるかが我々のこれからの勝負かなと思いますね」
-本日は、ありがとうございました。
【あとがき】
社員一人ひとりがエンターテナーとして、世間に楽しさを伝えるべく仕事を楽しむ一方で、最新の技術と職人によるノウハウが融合した唯一無二の存在であるが故の苦労なども背負う彼ら。そんなバックボーンがあるからこそ、彼らが作るガンプラの人気が未だ衰えないのかもしれない。アキバ経済新聞では今後も、BHCとガンプラの更なる飛躍に注目していきたい。
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